高血圧症の初診日において厚生年金保険の被保険者資格を有していた者が同資格を喪失した後に発症した脳出血により障害の状態にあるとして行った事後重症による障害厚生年金の裁定の請求に対する不支給処分が違法とされた事例
東京地裁H26.10.30
高血圧症の初診日において厚生年金保険の被保険者資格を有していた者が同資格を喪失した後に発症した脳出血により障害の状態にあるとして行った事後重症による障害厚生年金の裁定の請求に対する不支給処分が違法とされた事例
<事案>
Xは、厚生年金保険及び国民年金の被保険者期間を有する者であり、昭和56年4月1日、厚生年金保険の被保険者資格を取得、平成15年3月6日、同資格を喪失、平成16年4月1日、同資格を再び取得、平成18年3月1日、同資格を再び喪失、平成19年12月9日の時点において同資格を有さず。
Xは、平成15年1月20日、病院を受診し、高血圧症と診断
平成19年12月9日、脳出血と診断
Xは、疾病にかかり、又は負傷し、その疾病又は負傷及びこれらに起因する疾病につき初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(「初診日」)を平成19年12月9日とする本件脳出血による障害の程度が国民年金法施行令別表に該当するとして障害基礎年金の裁定の請求⇒障害等級を2級15号とする障害基礎年金の裁定を受け、同年金を受給。
Xは、改めて、障害の原因である傷病を、
①初診日を平成15年1月20日とする本件高血圧症及び
②初診日を平成19年12月9日とする本件脳出血として
障害基礎年金の裁定の請求及び事後重症による障害厚生年金保険障害給付の裁定の請求(「本件請求」)
⇒
①本件請求について、本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係がなく、本件脳出血の初診日において厚生年金保険の被保険者であった者に該当しない、
②本件脳出血については、先行処分と同一の傷病であり、重複請求である
⇒不支給処分
⇒Xは、本件訴訟において、国であるYに対し、本件請求に対する不支給処分の取消しを求めた。
<争点>
本件脳出血が初診日を平成15年1月20日とする本件高血圧症に「起因する疾病」(厚生年金保険法47条1項本文)であるか否か
<判断>
「起因する疾病」とは、前の疾病がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというように、前の疾病との間に相当因果関係があると認められる疾病をいうものと解するのが相当。
問題となっている疾病の具体的状況を詳細に検討
⇒
本件脳出血は高血圧性脳出血であって、本件高血圧症と本件脳出血との間には相当因果関係があると認められる⇒本件脳出血は高血圧症脳出血に「起因する疾病」であると認めることができ、本件請求は事後重症による障害厚生年金の支給要件を満たす
⇒本件処分は違法。
<解説>
厚生年金保険法47条1項本文は、障害厚生年金は、初診日において被保険者であった者が、当該初診日から起算して1年6月を経過した日(その期間内にその傷病が治った日(その症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含む。)があるときたその日とする。)において、その傷病により、所定の障害等級に該当する程度の障害の状態のある場合に、その障害の程度に応じて、その者に支給する旨規定しており、初診日において厚生年金保険の被保険者資格を有することが障害厚生年金支給のための要件となる。
本判決は、「起因する疾病」について、問題となっている疾病の具体的状況等を詳細に検討した上で、初診日における厚生年金保険の被保険者資格を認定した事例。
判例時報2250
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