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2015年5月19日 (火)

認知症の高齢者を養親とする養子縁組の効力(有効)

広島高裁H25.5.9    

認知症の高齢者を養親とする養子縁組について、縁組当時、同人の意思能力又は縁組意思がなかったと認めることは困難であるなどとして、養子縁組無効確認請求を認容した原判決が取り消され、請求が棄却された事例
 
<事案>
平成17年9月に亡A(大正5年生)とその二男の妻X1との間の養子縁組届が提出
平成19年8月にAとその二男の子(Aの孫)であるX2、X3及びX4との間の各養子縁組届が提出。 

Aの長男であるYが、
①Aは本件第1縁組及び本件第2縁組の当時、認知症に罹患しており、他人の話す言葉の意味を判断できず、言いたいことも伝えられない状態⇒意思能力を欠いていた
②本件第1縁組及び本件第2縁組は、Yの遺留分を減少させることを目的としてなされたものでありAは縁組意思が欠如していた

X1との関係で、本件第1縁組の無効の確認を
X2、X3及びX4との間で本件第2縁組に係る各養子縁組の無効の確認を
求めた事案。
 
<規定>
民法 第802条(縁組の無効) 
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。
 

<原判決>
本件第1縁組及び本件第2縁組のいずれの時点においても、Aには意思能力がなかった⇒Yの請求をいずれも認容 
 
<判断>
●第1縁組(平成17年9月) 
ア:
①平成13年頃から認知症に罹患していた事実
②主治医の平成17年作成の意見書で、短期記憶に問題あり、日常の意思決定を判断できない、自分の意思を伝えられない、幻視・幻聴、妄想、昼夜逆転、徘徊があり、記銘力障害、うつ状態が徐々に強くなり、最近では徘徊、妄想が出現するようになったとされていた事実
③Aが通所していた介護老人福祉施設の平成17年調査票で、日課の理解ができない、面接直前の行為を思い出すことができない、季節の理解ができないとされていた事実、
④要介護3と認定されていた事実

縁組当時においてAの事理弁識の能力が低下していたことをうかがわせる事実を認定

イ:
①Aが当時、介護老人福祉施設において、簡単な四則計算や漢字の読みのテストをほぼ正解し、職員との間の意思疎通に欠く別の問題は生じていなかった事実、
②介護老人福祉施設の平成17年調査票において、意思の伝達ができる、介護者の指示がときどき通じる、生年月日・年齢を答えることができる、自分の名前を答えることができる、自分がいる場所を答えることができる、問題行動はなく、介護する上で必要なその場の指示は何度か言えば通じるとされていた事実

縁組当時においてAの事理弁識能力が一定程度あったことをうかがわせる事実を認定

Aが縁組をするに至った経緯に関し、
Aが、高齢となって一人暮らしに不安が生じたたため二男夫婦と同居し、次男の妻であるX1から日常的に身の回りの世話を受けるようになった事実、AがX1に感謝の気持ちを有し、何かしてあげたいなどと言うようになり、税理士に相談してX1を養女にすることを考えたとの事実を認定。
Aが養子縁組届に署名した状況に関し、Aが、証人となることを依頼されると、よろしくお願いしますと返答して、養子縁組届に署名捺印した事実、その署名は筆跡から意思能力が疑われるようなものではなかったとの事実を認定。

主治医が、本件第1縁組の約2年後に行われた本件第2縁組について、Aに意思能力がある旨の覚書を作成した事実を認定。

前記アの事実をもって、Aが、本件第1縁組当時、意思能力を欠いていて、本件各縁組の意思表示をすることができず、縁組意思もなかったと認めることは困難であり、むしろ、Aは意思能力及び縁組意思を有していたものと認めるのが相当

Aの長谷川式簡易スケールの検査結果(4~6点)が高度の認知症を示しているとのYの主張に対し、右記検査は簡易なものである上、Aにはうつ状態の持病もあった⇒直ちに客観的なものということはできず、むしろ認知症の程度は日常生活を観察して判断すべきである旨判示して、これを排斥。

●第2縁組(平成19年8月)
ア:
Aの主治医の意見書や介護老人福祉施設の調査票の記載等から、本件第2縁組当時において、Aの事理弁識の能力が第一縁組の時点よりも低下していたことをうかがわせる事実を認定。
他方で、平成19年当時のAの介護老人施設での生活状況、Aが養子縁組届に署名した状況に関する事実、署名の筆跡、税理士の関与のほか、主治医が、Aの縁組届への署名に立ち会い、AがX2とX3とX4の3人を養子にする意思は明確でその意思を理解している旨の覚書を作成し、Aの診療録と一緒に保管していた事実を認定。

これらの事実からすると、前記アの事実から、Aが、本件第2縁組当時、意思能力を欠いていて、縁組の意思表示をすることができず、縁組意思もなかったと認めることができず、縁組意思もなかったと認めることは困難であり、むしろ、Aは、意思能力及び縁組意思を有していたと認めるのが相当
 
<解説>

民法802条は、届出の不存在(同条2号)のほか、「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」に限り、縁組を無効とする(同条1号)が、これは、縁組当事者において意思能力を有し、その縁組の届出をしたにもかかわらず、人違いその他の事由により、その効果を欠く場合のみならず、縁組当事者が意思能力を有しないにもかかわらず縁組の届出をしないときにも適用がある(大判大6.12.20)。 
 

近時は、認知症の高齢者について縁組意思(意思能力)の存否が問題とされる事例が増加。 
裁判例は、いずれも、認知症の高齢者の意思能力や縁組意思の欠如について、様々な間接事実を検討して、総合判断している。

間接事実:
①認知症の発症時期
②縁組当時における医学的判断(長谷川式簡易スケール等の認知症の程度のテストの結果、主治医の意見書の記載等)
③介護認定
④縁組届の署名の筆跡
⑤養子との従前の人間関係
⑥日常の言動
⑦第三者への相談の有無
⑧弁護士や司法書士等の専門職の関与の有無等

本件事案:
主治医が、本件第1縁組の約2年後に行われた本件第2縁組の縁組届への署名に立ち会い、Aの縁組意思が明確でその意味を理解している旨の覚書を作成し、Aの診療録と一緒に保管していたとの特殊事情
~本判決がAの意思能力を肯定する上で重要な要素。

判例時報2250

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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コメント

養子縁組の件です
祖母ですが息子の嫁がネグレクトが治らないので養子縁組をしましたが
養子縁組の養子は本人自署なのですが本人は書いていないと言い
裁判になりそうです。用紙を出すのに嫁には内緒で出しました
嫁夫婦で喧嘩をしていて私は彼女に確認はしていません
二人で話合ってこうなったと思っていました・ネグレクトで児童相談所に子供が連れて行かれた時に
児相の人に祖父母に養女にすると言う事を話していたレコーダーにも残っています
無免許運転で逮捕された(犯人隠避教唆。無免許運転。過失傷害)今現在執行猶予3年
留置所から手紙を出していたので彼女の名前が書いてある
留置所から出て男関係で揉め警察が踏み込んでいます又夫は嫁の男関係で相手を殺す目的で
殺人予備教唆で逮捕されています
これらの事を顧慮しても養子縁組が無効とされますか?
ただ1つひっかかるとすれば夫婦で話合が出来てると思い相手に確認していないと言うだけです
子供を守るためにしました

投稿: 芽衣 | 2015年6月 8日 (月) 17時41分

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