バス車内の痴漢事案について、有罪とした原判決を破棄し、無罪が言い渡された事例
東京高裁H26.7.15
バス車内の痴漢事案について、被害者供述の信用性を認めて有罪とした原判決を破棄し、無罪が言い渡された事例
<事案>
被告人が、走行中のバス車内において、女性の臀部を着衣の上から触るなどし、公共の乗物において、人を著しくしゅう恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような卑わいな行為をしたとして、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反(8条1項2号、5条1項、平成24年東京都条例第86号による改正前のもの)の罪で起訴された事案。
<一審>
被害者の供述の信用性を認めて有罪
車載カメラの映像から、被告人は右手で携帯電話を操作するなどしており、被告人が右手で痴漢行為をすることは不可能に近いとしても、被害があったとされる時間帯の左手は不明であり、右手で携帯電話を操作しながら、左手で痴漢行為をすることは、容易とはいえないけれども、不可能とか著しく困難とまではいえず、被害者の供述の信用性を左右するものではない。
<判断>
被害者供述の信用性を肯定してその供述するとおりの態様の痴漢行為を被告人が行ったと認めるには、合理的な疑いが残る⇒原判決を破棄し、無罪を言い渡した。
車載カメラの映像は、携帯電話を操作していたという被告人供述に沿う状況が存在したことを相当程度うかがわせるものであり、被害者供述に疑問を生じさせるものとみるのが自然。
それにもかかわらず、第一審が、車載カメラの映像上、被告人が左手で痴漢行為をしたことを明確に否定できないということから、被害者供述の核心部分が客観的状況と矛盾しないというのは明らかに論理の飛躍。
被害者も、臀部を撫でられた際、被告人は左手で吊皮をつかんでいたと述べており、被告人が左手で痴漢行為を行ったと考えるのは無理があるといわざるを得ない。
<解説>
最高裁H21.4.14:
電車内における痴漢による強制わいせつの事案において、被告人が一貫して犯行を否認しており、被害者の供述以外に犯行を基礎づける証拠がなく、被告人にこの種の犯行を行う性向もうかがわれないという事情の下では、被害者の供述の信用性判断は特に慎重に行う必要があり、被害者の供述する被害状況に不自然な点があることなどを勘案すると、被害者の供述の信用性を全面的に肯定した第一審判決及び原判決の認定は不合理である⇒第一審判決及び原判決を破棄して被告人に無罪。
刑訴法382条の事実誤認について、最高裁H24.2.13:
「刑訴法382条の事実誤認とは、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である」と判断。
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
判例時報2246
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