一般乗用旅客自動車運送事業における最高乗務距離規制に係る地方運輸局長の判断が裁量権の範囲を逸脱し違法とされた事案
東京地裁H26.3.28
一般常用旅客自動車運送事業における最高乗務距離規制に係る地方運輸局長の判断が裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であるとされた事例
<事案>
道路運送法(平成25年改正前のもの)27条1項を受けて、旅客自動車運送事業運輸規則22条は、地方運輸局長が指定する地域内に営業所を有するタクシー事業者は、地方運輸局長が定める乗務距離の最高限度を超えて当該営業所に属する運転者を事業用自動車に乗務させてはならない旨を規定。
関東運輸局長:・・・東京都の特別区・武三交通圏を含む各交通圏を一般乗用旅客自動車運送事業者の乗務距離の最高限度の規制地域に指定。
市乗務員当たりの乗務距離の最高限度を、隔日勤務運転者については365キロ、日勤勤務運手車については270キロと定め、これを公示。
Xが、本件公示が違法である旨主張し、Yを相手に、
(1)主位的に、本件公示のうち特別区・武三交通圏につき乗務距離の最高限度を定めた部分の取消しと、その乗務距離の最高限度を超えたことを理由とする不利益処分の差止めを求めるとともに、
(2)予備的に、本件公示に定められた乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させることができる地位にあることの確認と、その乗務距離の最高限度を超えたことを理由とする不利益処分の差止め
を求める。
<争点>
本案前の争点:
①本件公示の処分性
②本件差止めの訴えの訴訟要件(処分の蓋然性、重大な損害)の有無
③本件確認の訴えにおける確認の利益の有無
本案の争点:
④運輸規則22条が憲法22条1項に違反するか
⑤運輸規則22条が法27条1項の委任の趣旨に反するか
⑥本件公示に係る関東運輸局長の判断に裁量権を逸脱又は濫用した違法があるか
<判断>
●①本件公示の処分性
本件公示が、法27条1項を受けて定められた運輸規則22条の内容を補充する立法行為(行政立法)としての性質を有し、各交通圏内に営業所を有する一般乗用旅客自動車運送業者という不特定多数の者に適用されるものであり、特定の者に対して個別具体的な権利義務の変動を生じさせるものではない。
⇒直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものとはいい難い。
⇒本件公示は抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。
●②本件差止めの訴えの訴訟要件(処分の蓋然性、重大な損害)の有無
本件公示後におけるXの乗務距離規制違反の発生状況等から、関東運輸局によるXの営業所に対する監査が継続的に実施されると、乗務距離規則違反を理由として法40条に基づく自動車その他の輸送施設の使用の停止処分がされる蓋然性がある(法40条に基づく事業の停止処分や許可の取消処分がされる蓋然性は認められない)。
but
上記の使用停止処分については、処分後に取消訴訟を提起して執行停止の決定を受けることにより救済を受けることが可能。
⇒
同処分によりXに重大な損害を生ずるおそれがあるとは認められない。
●③本件確認の訴えにおける確認の利益の有無
Xがその営業所に属する運転者を乗務距離の最高限度を超えても事業用自動車に乗務させることができる法的地位の確認を求めることは、乗務距離規則によって生じているXの法律上の地位の現実的な不利益(営業の自由に対する制約)を除去し、XとYとの間で現在生じている紛争を解決するために有効かつ適切
⇒確認の利益を認めた。
●本案の判断
乗務距離規制が定められた経緯、本件公示に係る関係通達等の内容、関東運輸局長が本件公示を定めるに当たって実施した手続等を詳細に認定。
運輸規則22条の乗務距離規制は憲法22条1項に違反せず、運輸規則22条が法27条1項の委任を超える無効なものともいえない。
関東運輸局長が採用した本件公示について、一乗務当たりの最大走行可能事件にタクシーの平均走行速度を乗じて一日の乗務距離に関する計算上の最大値を算出したことや、最大走行可能時間を算出する過程において、労働基準法所定の最低限の休憩時間を上回る休憩時間の平均値を控除したこと、本件公示における最高乗務距離の設定に当たり、最終的には基準に対する超過割合を考慮して大幅に数値を引き揚げる調整をしたこと等の問題点
⇒
最高乗務距離の設定に係る関東運輸局長の判断は、事実の評価を誤り、また、判断過程において考慮すべき事情を考慮しなかったことにより、合理性を欠くものと認められる
⇒裁量権の範囲を逸脱したものとして違法。
判例時報2248
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