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2015年4月 9日 (木)

産業廃棄物の最終処分場の周辺住民の産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分の無効確認訴訟並びに許可更新処分の取消訴訟の原告適格(肯定)

最高裁H26.7.29   

1.産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分及び許可更新処分の取消訴訟及び無効確認訴訟と産業廃棄物の最終処分場の周辺住民の原告適格
2.産業廃棄物の最終処分場の周辺住民が産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物処分業の許可処分の無効確認訴訟並びに上記各処分業の許可更新処分の取消訴訟の原告適格を有するとされた事例
 
<事案>
産業廃棄物の最終処分場を事業の用に供する施設として、宮崎県知事がZに対してした産業廃棄物処分業及び特別廃棄物産業廃棄物処分業の各許可処分及び各許可更新処分につき、高城町ほかの周辺地域に居住するXらが、Yを相手に、上記各許可処分の無効確認及びその取消処分の義務付け並びに上記各許可更新処分の取消しを求めた事案。
 
<規定>
行政事件訴訟法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
 
<原審>
本件処分場からの有害物質の排出の有無・程度及びこれらがXらに及ぼす被害の内容・程度につき証拠上認定できない⇒Xらは本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有しない⇒訴えを却下。 
 
<判断>
本件処分場の種類や規模等を踏まえ、その位置と上記の居住地との距離関係をなどに加えて、環境影響調査報告書において調査の対象とされる地域が、上記のとおり一般に当該最終処分場の設置により生活環境に影響が及ぶおそれのある地域として選定されるものであることを考慮すれば、上記の上告人らについては、本件処分場から有害な物質が排出された場合にこれらに起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に請けるものと想定される地域に居住するものということができ、上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められる

本件各許可処分の無効確認等及び本件各更新処分の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当。
 
<解説>
●取消訴訟の原告適格について定める行政事件訴訟法9条1項にいう「当該処分・・・の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(判例)。 
処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、同条2項(平成16年の行政事件訴訟法改正により新設)において、当該法令の趣旨・目的、当該処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮すべきものとされており、

最高裁H17.12.7(小田急事件判決):
同項の規定に沿って、関係法令の趣旨・目的を参酌し、当該処分により害される利益の内容・性質等を勘案して、原告適格の有無に関する柔軟な解釈を示す。
 
●本判決  
行政事件訴訟法9条の規定及び従来の最高裁判例における判断の枠組みを踏まえ、
①本件各許可処分及び本件各更新処分の根拠となる廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成22年改正前のもの(「廃棄物処理法」))の各規定及びその関連規定において、産業廃棄物処理施設に関する技術上の基準の適合性や生活環境の保全に係る適正な配慮等を要するものと定められている
②最終処分場の設備に不備や欠陥があって有害な物質が排出された場合には周辺住民の健康や生活環境に被害が及ぶおそれがあり、そのような事態の発生を防止するために廃棄物処理法における規制が設けられている
③周辺住民に及ぶ上記の被害の程度は、その居住地と当該最終処分場との近接の度合いによっては、その健康又は生活環境に係る著しい被害に至りかねない

廃棄物処理法は、公衆衛生の向上を図るなどの公益的見地から産業廃棄物等処分業を規制するとともに、産業廃棄物の最終処分場からの有害な物質の排出に起因する大気や土壌の汚染、水質の汚濁、悪臭等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して、そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当。

上記の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該最終処分場を事業の用に供する施設としてされた産業廃棄物等処分業の許可処分及び許可更新処分の取消し及び無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するものとして、その取消訴訟及び無効確認訴訟における原告適格を有する

Xらが著しい被害を直接的に受けるおそれがある者に当たるか否かに関し、その居住地域が上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるか否かにつき、最終処分場の種類や規模等の具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と当該最終処分場の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らし合理的に判断されるべき。

当該住民に係る原告適格の有無を判断する際に検討されるべき原判決の説示するような現実のおそれではなく、その居住地域が(仮に有害物質の排出があったとした場合に)上記の著しい被害を直接的に受けるものと想定される地域であるという抽象的なおそれで足りるとともに、最高裁H4.9.22(もんじゅ事件判決)を引用し、上記のおそれの有無の判断が社会通念に照らし合理的にされるべきことを改めて示した。
産業廃棄物の最終処分場の設置に係る許可に際して環境影響調査報告書の提出が義務付けられている(廃棄物処理法15条3項)
環境影響調査報告書における調査委対象地域は、一般に、その施設の設置により生活環境への影響が及ぶおそれのある地域として選定されたものといえる。

Xら12名については、本件処分場の種類や規模、居住地との距離関係等に加えて、その居住地が本件環境影響調査報告書の調査対象地域に含まれている⇒本件処分場から有害な物質が排出された場合に健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとして、その原告適格を肯定。

X1については、その居住地が本件環境影響調査報告書の調査委対象地域に含まれていない上、本件処分場の中心地点から少なくとも20キロ以上離れている等
⇒その原告適格を否定。

判例時報2246

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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