岡山県議会議員の政務調査費の支出の領収書等の自己利用文書性(否定)
最高裁H26.10.29
岡山県議会の議員が県から交付された政務調査費の支出に係る1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等及び会計帳簿が民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないとされた事例
<事案>
Xは、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、岡山県知事に対し、岡山県議会の議員であるYらに平成22年度に受領した政務調査費のうち使途基準に違反して支出した金額に相当する額の不当利得の返還請求をするように求める本案事件の訴えを提起。
本件は、Yらの所持する平成22年度分の政務調査費の支出に係る1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類及び会計帳簿について、Xが文書提出命令を申し立てている事案。
⇒本件各文書の民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(「自己利用文書」)への該当性が争点。
<規定>
民事訴訟法 第220条(文書提出義務)
次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
・・・・
四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
・・・・
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
地方自治法 第100条〔調査権等〕
⑭普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
⑮前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
<関係法令>
岡山県では、地方自治法の規定を受けて、岡山県議会の政務調査費の交付に関する条例を制定。
平成21年岡山県条例第32号による改正前には収支報告書への領収書等の写しの添付は一切要求されていなかったが、平成21年条例改正により、収支報告書には政務調査費の支出(1件当たりの金額が1万円を超えるものに限る。)に係る領収書の写しを添付して議長に提出しなければならない。
⇒収支報告書のみならず、領収書等の写しも閲覧請求の対象とされるに至った。
条例の委任を受けた岡山県議会の政務調査費の交付に関する規程は、議員に対し、政務調査費の支出について、会計帳簿の調製及び証拠書類等の整理保管並びにこれらの書類の保存を義務付けている。
<原々決定>
自己利用文書該当性を否定⇒その提出を命じた。
<原決定>
自己利用文書該当性を肯定し、本件申立てを却下。
<判断>
平成21年条例改正は、従前の取扱いを改め、政務調査費によって費用を支弁して行う調査研究活動の自由をある程度犠牲にしても、政務調査費の使途の透明性の確保を優先させるという政策判断がされた結果とみるべき。
本件条例が1万円を超える支出に係る領収書の写し等につき議長への提出を義務付けているのは、1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等に限って議長等が直接確認することを排除する趣旨にでたものではなく、また、平成21年条例改正後の本件条例の下では、本件規程により保存等が義務付けられている上記1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等や領収書その他の証拠書類等から明らかとなる情報が一覧し得る状態で整理された会計帳簿は、議長において上記条例に基づく調査を行う際に必要に応じて直接確認することが予定されている。
⇒
本件各文書の自己利用文書該当性を否定し、原決定を破棄して、原々決定に対する抗告を棄却。
<解説>
●自己利用文書該当性の要件:
最高裁H11.11.12:
①専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であること(内部文書性)
②開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあること(開示による看過し難い不利益)
の2要件を挙げ、これが備わる場合には、
③特段の事情がない限り、自己利用文書に当たる。
●
本件:
政務調査比の支出に関する文書である本件条例及び本件規程に定める「会計帳簿」「証拠書類等(ただし、1件当たりの支出額が1万円以下の支出に係るもの)」について、①の内部文書性が問題となったもの。
●
地方自治法100条14項及び15項の政務調査費の制度:
①地方議会の活性化を図るためには、その審議能力を強化していくことが必要不可欠であり、地方議員の調査活動基盤の充実を図る観点から、議会における会派等に対する調査研究費等の助成を制度化し、あわせて、
②情報公開を促進する観点から、その使途の透明性を確保するもの。
地方自治法は、その具体的な報告の程度、内容等については、各地方公共団体がその実情に応じて制定する条例の定めに委ねることとしている。
最高裁H17.11.10の仙台市の条例:
その委任を受けて議長が定めた要綱中に、議長は収支状況報告書の内容を検査するに当たり必要がある場合は会派の代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができる旨の明文規定あり。
最高裁H22.4.12の名古屋市の条例:
調査の具体的な内容については何ら定められていなかった。
当該条例の委任を受けた規則が経理責任者や会計帳簿等の保管等について定めているのは、議長による調査の際に会計帳簿や領収書等を提出させることを意図してのものではなく、政務調査費の適正な使用についての各会派の自律を経理面において促すとともに、各会派の代表者らが議長等による事情聴取に対し確実な証拠に基づいてその説明責任を果たすことができるようにその基礎資料を整えておくこと求めたものと解するのが相当であると判示。
本件条例等も、議長による調査の具体的な内容については何ら定めを置いていない。
but
名古屋市の条例等のように議長への収支報告書に領収書等を一切添付提出する必要がないとするものと、
平成21年条例改正後の本件条例等のように議長への収支報告書に一定の金額以上の領収書等を添付提出することを義務付けているものとでは異なる。
判例時報2247
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