親子会社間の継続的な製品供給契約での値引き/単価変更と法人税法上の寄付金(否定)
東京地裁H26.1.24
親子会社間の継続的な製品供給契約において、期初に一定の価格を設定して同価格による代金の支払が行われた後、期中又は期末に親会社の指示に基づき子会社が売上値引き及び単価変更により売上を減額した場合における当該減額分が法人税法(平成18年法律第10号による改正前)37条7項の寄附金に該当しないとして、法人税の更正処分等が取り消された事例
<事案>
X社が平成15年3月期から平成17年3月期までの各事業年度においてZ社に対して行った製品の売上値引き及び単価変更による売上げの減額が法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)37条に規定する寄附金に該当するとして税務署長が本件各事業年度の法人税の更正処分等
⇒X社が、Yを相手として、上記更正処分等の取消しを求めた。
X社は、Z社がその住宅用外壁部材等の製造部門を分社化して設立した同社の100%子会社。
X社が製造した外壁をZ社に販売し、Z社がそれをユニット生産8社に販売した上で、ユニット生産8社はこの外壁等を使用して生産したユニットをZ社に販売。
X社とZ社間の外壁取引においては、
①各半期の期初に、Z社からユニット生産8社に対する外壁の販売単価に一定の係数を乗じた取引価格を設定し
②外壁の代金として当初取引価格による決裁が行われた後、
③各半期の期末又は中間以降において、Z社の決定・通知に基づき、単価変更又は売上値引きを行っていた。
<争点>
売上値引き及び単価変更に係る金額が法人税法37条に規定する寄附金に該当するか否か。
<判断>
寄附金の意義:
法人税法37条7項にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与に限られず、経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与、すなわち、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しないものも含まれる。
Z社グループが営むユニット住宅事業の内容、同事業におけるX社の役割ないし事業特性、Z社とユニット生産8社及びX社との間における各基本契約等の内容及び購入価格の設定状況等を詳細に検討
①当初取引価格は、予算計画を策定するための基準として利用されることが予定されている数値にすぎず、X社とZ社との間で販売契約上の契約価格として合意されていたとするには相当疑義がある
②X社とZ社との間で、X社がZ社に対して販売する外壁につき、各半期の期末又は期中においてそれまでの実績に基づく原価計算によって算定される実際原価(実際見込原価)を基礎として、それに一定の損益算定方法により導かれる損益を加算するという手法により取引価格を決定するという内容の契約を締結することは、企業の事業活動の在り方として一概に不合理であるとまでは断ずることができない
③X社とZ社の損益の帰属を、一般に企業内部の予算統制のために実施される差異分析の手法により判定すること、すなわち、予算計画における損益と実績見込みにおける損益との差額につき、親子会社間で損益の増減に関して果たした役割ないし貢献度に応じて損益の帰属を判定することは不合理であるとはいえず、X社が差異分析の手法を転用して取引価格を決定したことが税負担を逃れるための恣意的な利益調整であるとは認められない。
⇒
X社とZ社間の販売契約における契約価格は、各半期における期末決定価格又は期中決定価格であると認められ、これと異なるYの主張は、真実の法律関係から離れて法律関係を構成するものであり、採用することができない。
販売契約において合意されたとみるべき外壁の契約価格は、各半期における期末決定価格又は期中決定価格であるから、その余の点について判断するまでもなく、売上値引き及び単価変更により、X社からZ社に対し、経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与がされたとは認められず、売上値引き及び単価変更に係る金額は法人税法37条7項の寄附金に該当しない。
⇒X社に対する本件各事業年度の法人税の更正処分等を取り消した。
判例時報2247
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