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2015年3月26日 (木)

生活保護法62条3項に基づく保護の廃止の決定に先立つ、処分行政庁による被保護者に対する同法27条1項に基づく指示

最高裁H26.10.23   

生活保護法62条3項に基づく保護の廃止の決定に先立ち、処分行政庁による被保護者に対する同法27条1項に基づく指示が生活保護法施行規則19条により書面によって行われた場合において、当該書面に記載されていた事項に代わる対応として処分行政庁が口頭で指導していた事項が指示の内容に含まれると解することはできないとされた事例 
 
<事案>
生活保護の被保護者であった上告人(X)が、処分行政庁から生活保護法62条3項に基づく生活保護廃止決定を受けた⇒本件廃止決定は保護廃止の要件を満たさない違法なものであるとして、被上告人(Y)に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を請求
 
<規定>
生活保護法 第62条(指示等に従う義務)
被保護者は、保護の実施機関が、第三十条第一項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第二十七条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。
2 保護施設を利用する被保護者は、第四十六条の規定により定められたその保護施設の管理規程に従わなければならない。
3 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる

生活保護法 第27条(指導及び指示)
保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
 
<原審>
①本件指示(「友禅の仕事の収入を月額11万円(必要経費を除く)まで増収してください。」)は、上告人が本件自動車を事業用資産として保有し続けることを前提としてされたものであり、その指示に係る増収を達成することができない場合でも、本件自動車を処分すれば直ちに保護の廃止がされるものではないことも含んだものであったといえる
②本件指示の内容を①のように解すると、月額11万円への増収は、本件自動車を保有し続けるために求められるものにすぎないから、仮に上記の増収が著しく困難であったとしても、本件自動車を処分すれば本件指示に従ったことになる
⇒本件指示の内容が客観的に実現不可能又は著しく困難であったとまではいえない
⇒本件廃止決定に違法はないとして、上告人の請求を棄却。
 
<判断>
生活保護法62条1項は、保護の実施機関が同法27条の規定により被保護者に対し必要な指導又は指示をしたときは、被保護者はこれに従わなければならない旨を定め、同法62条3項は、被保護者がこの義務に違反したときは、保護の実施機関において保護の廃止等をすることができる旨を規定。

生活保護法施行規則19条は、同法62条3項に規定する保護の実施機関の権限につき、同法27条1項の規定により保護の実施機関が書面によって行った指導又は指示に被保護者が従わなかった場合でなければ行使してはならない旨を定めているところ、その趣旨は、保護の実施機関が上記の権限を行使する場合にこれに先立って必要となる同項に基づく指導又は指示を書面によって行うべきものとすることにより、保護の実施機関による指導又は指示及び保護の廃止等に係る判断が慎重かつ合理的に行われることを担保してその恣意を抑制するとともに、被保護者が従うべき指導又は指示がされたこと及びその内容を明確にし、それらを十分に認識し得ないまま不利益処分を受けることを防止して、被保護者の権利保護を図りつつ、指導又は指示の実効性を確保することにある。

このような生活保護法施行規則19条の規定の趣旨に照らすと、上記書面による指導又は指示の内容は、当該書面自体において指導又は指示の内容として記載されていなければならず、指導又は指示の内容やそれらに対する被保護者の認識、当該書面に指導又は指示の理由として記載された事項等を考慮に入れることにより、当該書面に指導又は指示の内容として記載されていない事項まで指導又は指示の内容に含まれると解することはできないというべきである。
本件指示書には、指示の内容として、本件請負業務による収入を月額11万円まで増収すべき旨が記載されているのみであり、本件自動車を処分すべきことも指示の内容に含まれているものと解すべき記載は見当たらない。

本件指示の内容は上記の増収のみと解され、処分行政庁がXに対し従前から増収とともにこれに代わる対応として自動車の処分を口頭で指導し、Xがその指導の内容を理解しており、本件指示書にも指示の理由として従前の指導の経過が記載されていたとしても、上記自動車の処分が本件指示の内容に含まれると解することはできない
 
<解説> 
書面による指示の内容が客観的に実現不可能又は著しく困難なものである場合には当該指示が違法となり、当該指示に従わなかったことを理由とする保護廃止決定も違法となる。
⇒前提として、書面によりいかなる指示がされたかを認定判断する必要がある。

生活保護法施行規則19条は、「法第62条3項に規定する保護の実施機関の権限は、法第27条第1項の規定により保護の実施機関が書面によって行った指導又は指示に、被保護者が従わなかった場合でなければ行使してはならない」旨規定。 

判例時報2245

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