行政組織上の行政機関以外の組織が行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関 」に該当する場合
最高裁H26.9.25
1.行政組織上の行政機関以外の組織が行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関 」に該当する場合
2.日本年金機構の下部組織である事務センターが行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当しないとした原審の判断に違法があるとされた事例
<事案>
厚生労働大臣が徳島県内に居住するX(抗告人)に対して国民年金法による障害基礎年金の裁定請求(「本件裁定請求」)を却下する旨の処分
⇒XがYを相手にその取消しを求めて徳島地方裁判所に提起。
Y(国)が、本件訴訟につき、管轄違いを理由に、行政事件訴訟法12条4項により、Xの普通裁判権の所在地を管轄する高松高等裁判所の所在地を管轄する高松地方裁判所に移送することを申し立てた。
<規定>
行政事件訴訟法 第12条(管轄)
取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
3 取消訴訟は、当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たつた下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる。
<原審・原々審>
Xの本件裁定請求に係る審査をした徳島事務センターは行政機関に当たらない
⇒行政事件訴訟法12条3項にいう「事務の処理に当たった下級行政機関」に該当せず、本案訴訟は徳島地方裁判所の管轄に属しない。
⇒
Yの移送の申立てを容れて、本案訴訟を高松地方裁判所に移送すべきと判断。
⇒Xがこれを不服として許可抗告を申し立てた。
<判断>
処分に関わる事務を行った組織が行政組織法上の行政機関ではなく、特殊法人等又はその下部組織であっても、行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当する場合がある。
⇒原決定を破棄。
徳島事務センターが本件処分につき事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができるか否かに関し更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。
<解説>
●
行政事件訴訟法12条3項が「事業の処理に当たった下級行政機関」の所在地に取消訴訟の管轄を認めた趣旨は、本決定が説示するとおり、「当該下級行政機関の所在地の裁判所に管轄を認めることにつき、被告の訴訟追行上の対応に支障が生ずることはないと考えられ、他方で原告の出訴及び訴訟追行上の便宜は大きく、また、当該裁判所の感覚区域内に証拠資料や関係者も多く存在するのが通常であると考えられるから証拠調べの便宜にも資し、審理の円滑な遂行を期待することができることにある」ものと解される。
⇒
処分行政庁を補助して処分に関わる事務を行った組織は、それが行政組織法上の行政機関ではなく、法令に基づき処分行政庁の監督の下で所定の事務を行う特殊法人等又はその下部組織であっても、法令に基づき当該特殊法人等が委任又は委託を受けた当該処分に関わる事務につき処分行政庁を補助してこれを行う機関であるといえる場合において、当該処分に関与したと評価することができるときは、同項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するものとして、その所在地に管轄を認めるのが同項の趣旨に合致。
●
本決定が引用する平成13年最高裁決定(H13.2.27):
下級行政機関が「事案の処理に当たった」といえるか否かにつき、組織法上の権限や法令上の事務分担の観点から決するのではなく、当該下級行政機関が当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与したかどうかという事務処理の実態面から決すべきとする見解
本決定が引用する平成15年最高裁決定(H15.3.14):
「下級行政機関」に当たるものは、当該処分等を行った行政庁の指揮監督下にある行政機関(すなわち、行政組織法上の下級行政機関)に限られないとの見解。
~
これらの最高裁決定は、行政事件訴訟法12条3項の「事案の処理に当たった下級行政機関」の解釈に当たり、行政組織法上の権限等から形式的に判断するのではなく、同項の趣旨に照らして実質的な観点から判断すべきことを明らかにしたもの。
●
今後、本件と同様の事案で管轄が争われた場合、事務センターの裁定請求の審査に関する内部規程(日本年金機構組織規程など)のほか、事務センターが審査のために作成した報告書などの資料に基づき、「事案の処理に当たった下級行政機関」性について判断することが想定。
判例時報2243
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