電車内の痴漢事案と勾留の必要性
迷惑行為防止条例違反被疑事件において勾留請求を却下した原々裁判を取り消して勾留を認めた原決定に刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
最高裁H26.11.17
事案 朝の通勤通学電車内でのいわゆる痴漢の事案(迷惑防止条例違反)
<原々審>
勾留の必要性なし⇒勾留請求を却下
<原決定>
被疑者と被害少女の供述が対立し、被害女性の供述内容が極めて重要であり、被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もある⇒勾留の必要性を肯定
<判断>
被疑者は、前科前歴がない会社員であり、原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば、本件おいて勾留の必要性の判断を左右する要素は、罪証隠滅の現実的可能性の程度を考えられ、原々審が、勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは、この可能性が低いと判断したものと考えられる。
本件事案の性質に加え、本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので、被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情が窺われないことからすると、原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ、原決定の説示をみても、被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで、その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
そうすると、勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して、勾留を認めた原決定には、刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
<解説>
●勾留の必要性が勾留の条件
勾留の必要性の判断:
被疑者勾留による公益的利益と、これによって被疑者が被る不利益を比較衡量し、被疑者勾留が相当かとうい点が問題。
具体的考慮要素:
勾留理由の認められる程度、事案の軽重、逮捕時間内での事件処理の可能性、示談の成立、前科前歴の有無、被疑者の年齢、健康状態、勾留による不利益の程度(仕事等への影響)、身柄引受人の存在、家族の受ける不利益等
勾留の必要性がないと判断した事例では、勾留理由の審査で、罪証隠滅、逃亡のおそれはあるが、それは小さいと判断したことが、勾留の必要性の審査に繋がっていることが多い。
●
電車内の痴漢事案(迷惑防止条例のもの)では、特殊事情がなければ類型的にみて被害者への働き掛けに及ぶ客観的可能性は低いと思われる。
本決定は、基本的には事後審である原審の判断について、原々裁判と異なる判断に至った理由、すなわち原々裁判が不合理である評価した理由を何ら説示していない点において、単に勾留の必要性に関する実体判断にとどまらず、準抗告審の判断方法としてしても誤っている旨を指摘。
●
最高裁は、これまでの事案に応じて、特別抗告において、保釈を認めなかった原決定を取り消すなどしてきており、従前から身柄拘束に対する慎重な態度を採ってきたことが窺われる。
他方で、身柄拘束による被疑者や被告人の不利益を踏まえつつも、真に必要な事案では身柄拘束を認めている。
判例時報2245
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