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2015年2月17日 (火)

開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟

最高裁H26.7.14    

開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟における当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことの主張立証責任 
 
<事案>
「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」(昭和47年条約第2号)の締結に至るまでの日本政府と米国政府との間の交渉(「沖縄返還交渉」)において、日本が米国に対して右協定に規定された内容を超える財政負担等を国民にしらせないまま行う旨の合意(「密約」)があったとしてされた同合意に関する行政文書(「本件各文書」)の情報公開に係る事案。 

Xらが、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)に基づき外務大臣及び財務大臣に対し、本件各文書の開示を請求
本件各文書につきいずれも保有していないとして不開示とする旨の各決定(「本件各決定」)⇒Y(国)を相手に、本件各決定の取消しと国賠法1条1項に基づく損害賠償等の支払を求めるもの。
 
<規定>
情報公開法 第3条(開示請求権)
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる。

情報公開法 第2条(定義)
2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
 
<一審>
前記各省が本件各文書を保有するに至ったことが認められる。
その後も保有が継続していることが事実上推認される。
⇒Xらの請求をいずれんも認容。 
 
<原審>
右各省が本件各文書を保有するに至ったことが認められる。 

過去のある時点において当該行政機関が当該行政文書を保有するに至ったことから、その状態がその後も継続していることを事実上推認するための前提となる、当該行政文書が行政機関の職員が組織的に用いるものとして一定水準以上の管理体制かに置かれたこと自体について、これ認めるには合理的疑いがある。

右各省が本件各文書を保有していたと推定する前提を欠き、また推認することを妨げる特段の事情があるというべき。

Xらの請求を棄却(本件各文書の開示決定の義務付けを求める訴えは却下)
 
<判断>

開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟における当該行政文書の保有の主張立証責任について、情報公開法上、当該行政機関が当該行政文書を保有していることがその開示請求の成立要件とされている⇒原告側がこれを負う。 


ある時点において当該行政文書を保有するに至ったことが立証された場合、不開示決定時においてもこれを保有していたことを推認することができるか?

当該行政文書の内容や性質、その作成又は取得の経緯や右決定時までの期間、その保管の体制や状況等に応じて、その可否を個別具体的に検討
すべき。

本件においては、本件各文書の内容や性質及びその作成の経緯や本件各決定時までに経過した年数に加え、各省におけるその保管の体制や状況等に関する調査の結果など、原審の適法に確定した諸事情の下においては本件各決定時においても各省によって本件各文書が保有されていたことを推認するには足りない
⇒Xらの請求を斥けた原審の判断を是認。
 
<解説> 
●情報公開請求に対する不開示決定の取消訴訟について、情報公開法には、各要件事実の主張立証責任の分担に関する明文規定が存しない(地方公共団体の情報公開条例についても同様の問題状況)。

不開示情報に該当することを理由とする不開示決定の取消訴訟における不開示情報該当性については、行政機関側がその主張立証責任を負う(最高裁H6.2.8)。

●行政処分の取消訴訟における主張立証責任の分配:
A法律要件分類説:
民事法の法律要件分類説を取消訴訟にも援用し、根拠法規の規定によって、その条項が①権利根拠規定、②権利障害規定、③権利阻止規定及び④権利消滅規定のいずれに当たるかを確定し、その各々について、それが自己に有利に働く方が主張立証責任を負う

B侵害処分・授益処分二分説:
国民の自由を制限し、国民に義務を課する行政行為の取消訴訟においては、常に被告が主張立証責任を負い、国民の側から国に対して、自己の権利領域、利益領域を拡張することを求める請求においては、原告が主張立証責任を負う。

C個別具体説:
当事者間の公平、事案の性質、事物に関する立証の難易等によって個別具体的に判断すべき 

対象文書が物理的に存在すること
は、開示請求権の発生要件A法律要件分類説では、開示請求権の権利根拠規定に当たり、原告が主張立証責任を負う。
 

行政文書は、行政機関の職員により作成され、又は取得され、行政機関によって保有されている⇒その存否につき、請求者側に主張立証責任を負わせると困難な立証を強いることとなる場合が生じる。
but
原告側にどの程度の困難を強いることになるのか、あるいは、被告側に主張立証責任を負わせた場合にどの程度の困難を強いることになるかは、対象文書の性質や内容、作成又は取得の経緯、開示請求者の対象文書の特定の仕方等によって異なり得る

対象文書の性質や内容、作成又は取得の経緯、開示請求者の対象文書の特定の仕方等の諸般の事情に応じ、具体的な立証方法やその程度を工夫することによって解決するのが相当。 

情報公開法施行後、更には平成23年4月1日から施行されている公文書等の管理に関する法律の下では、
①の事実(過去のある時点において、当該行政機関の職員が当該行政文書を作成し、又は取得し、当該行政機関がそれを保有するに至ったこと)から②の事実(右①の状態がその後も継続していること)を推認し得る程度や行政機関の側で必要となる反証の内容や程度も自ずと異なる。

判例時報2242

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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