タクシー会社に対する自動車使用停止等の処分の差止め・地位確認・地域指定の違法性
名古屋高裁H26.5.30
1.一般乗用旅客自動車運送事業者が、地方運輸局長の定めた乗務距離の最高限度を超えたことを理由とする自動車使用停止等の処分の差止めを求める訴えが適法であるとされた事例
2.一般乗用旅客自動車運送事業者が、違法運送局長の定めた常務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させることができる地位の確認を求める公法上の法律関係に関する確認の訴えについて確認の利益があるとされた事例
3.地方運輸局長がした旅客自動車運送事業運輸規則22条1項の地裁の指定が、規制の必要性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとされた事例
<事案>
旅客自動車運送事業運送規則22条1項に基づき、中部運輸局長は、平成21年10月28日付けの公示(「本件公示」)をもって、新たに名古屋交通圏を乗務距離の規制地域として指定し、乗務距離の最高限度を隔日勤務運転者について360キロ、日勤勤務運転者について270キロと定めた。
X(被控訴人)は、名古屋交通圏等で一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)を営む会社であるが、平成22年6月7日付けで、中部運輸局長から、乗務距離の最高限度違反等を理由として、35日車の自動車使用停止処分(「本件処分」)を受けた。
Xが、本件公示が違法であるなどと主張して、
①本件公示の取消し、
②本件工事に係る乗務距離の最高限度を超えたことを理由とする道路運送法40条に基づく処分(自動車使用停止処分、事業停止処分又は許可取り消処分)の差止め(本件差止訴訟)
③本件公示に係る乗務距離の最高限度を超えて運転者を事業用自動車に乗務させることができる地位の確認(本件確認訴訟)及び
④本件処分の取消しを求めた。
<規定>
行政事件訴訟法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。
行政事件訴訟法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
行政事件訴訟法 第4条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
<争点>
①本件公示の処分性
②本件差止訴訟の適法性
③本件確認訴訟の適法性(確認の利益の有無)
④本件公示ないし本件乗務距離規制の適法性
⑤本件処分の適法性
一審判決後に本件処分取消の訴えの利益が消滅⇒本判決では同訴えが却下され、争点⑤については判断なし。
<解説>
●本件差止訴訟及び本件確認訴訟の適法性(争点②③)
◎ 差止訴訟ついては、まず、処分がされる蓋然性(行訴法3条7項)が訴訟要件。
本件では、法40条に基づく処分のうち、特に事業停止処分及び許可取消処分については、処分基準上、違反点数がかなり累積しなければ行われない⇒処分がされる蓋然性があるといえるかが問題。
一審及び本判決:
Xが約100台の事業用自動車を保有し、これらを日々運行させて営業していることや、Xが本件乗務距離規制に違反した頻度や現に本件処分を受けた事実等
⇒肯定。
◎ 差止訴訟の訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」
最高裁H24.2.9(君が代事件):
「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく、処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する。
公立高校等の教職員が卒業式等における国歌斉唱等を命ずる旨の校長の職務命令に違反したことを理由とする懲戒処分の差止訴訟につき、通達を踏まえて毎年度2回以上の各式典を契機として上記職務命令が繰り返し発せられ、それに違反すると懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在し、その一連の累次の懲戒処分がされることにより生ずる損害は、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではないとして、「重大な損害を生ずるおそれ」を肯定。
一審と本判決:
日々運行しているXのタクシーの本件乗務距離規制違反を契機として処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険が現に存在⇒「重大な損害を生ずるおそれ」を肯定。
~
反復継続的かつ累積加重的に行政処分がされた場合に、その都度取消訴訟等の提起と執行停止の申立てをしなければならないとすることが行政処分に対する救済方法として適当かが問われる。
◎ 本件確認訴訟は、公法上の当事者訴訟として提起。
「公法上の法律関係に関する確認の訴え」(行訴法4条)について、平成16年の行訴法改正以来、積極的な活用が唱えられている。
一審及び本判決:
Xは、本件乗務距離規制によって営業を制約されているいる上、本件乗務距離規制を理由として法40に基づく処分や警告を受ける蓋然性が高く、これが反復継続帝かつ累積加重的にされる危険が現に存在⇒Xの法的地位に現実の危険ないし不安が生じているなどとして、確認の利益を肯定。
●本件公示に基づく本件常務距離規制の適法性(争点④)
◎
本件公示当時、名古屋交通圏においては、
①タクシーによる交通事故の発生件数や速度違反の通知件数が減少傾向にあったことから、タクシー事業者の営業の自由に対する影響が大きい乗務距離規制を新たに開始しなければならないような状況にあったとはいえず、
②タクシーの走行距離の減少傾向が続いていたことから、乗務距離規制の効果は限定的なものにとどまるというべき
③一部の事業者の間で過労運転や危険運転を招きかねない長距離運転が頻発している状況にあったと認めるに足りる証拠もない
⇒
中部運輸局長が名古屋交通圏を常務距離の規制地域に指定したことは、その規制の必要性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法。
◎ 新たに規制地域の指定⇒当該地域において当該規制を導入する必要性があるのかが問われる。
一審判決及び本判決:
この点に関する地方運輸局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否かを判断するに際し、乗務距離規制が設けられた経緯や本件公示に至る経緯及びその際実施された調査の内容、関係する各種統計データ等を詳細に認定した上で、当該規制が防止を図ろうとしているところの過労運転や危険運転を招きかねない長距離運転が当該地域で実際に行われているという証拠がどの程度あるかなどの点について検討。
判例時報2241
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
« 日本放送協会の放送の受信についての契約に基づく受信料債権の消滅時効期間は5年 | トップページ | 元利均等分割返済方式での返済の金銭消費貸借契約で、借主から約定の毎月の返済額を超過する額の支払がされたときの充当関係 »
「判例」カテゴリの記事
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
- 共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく諫早湾干拓地潮受堤防排水門の開門請求を認容する確定判決に対する請求異議訴訟(2023.05.16)
- 分限免職処分を違法とした原審の判断に違法ありとされた事例(2023.05.14)
- ロードサービスの不正利用についての損害賠償請求の事案(2023.05.14)
- 学校でのいじめ等での国賠請求(2023.05.14)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント