相続開始後で、死亡給付金請求権の履行期までに年金の種類及び支払期間を補充する指定をした場合における相続税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)24条1項の適用の可否 (肯定)
東京高裁H26.9.24
被相続人が締結した変額個人年金保険契約について、死亡給付金請求権の受取人とされた相続人が相続開始後で、死亡給付金請求権の履行期までに年金の種類及び支払期間を補充する指定をした場合における相続税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)24条1項の適用の可否
<事案>
Xらが、Yに対し、Xらの亡父SがXらを死亡給付金の受取人としてM(後に補助参加人Zに保険契約を包括移転)との間で締結していた各変額個人年金保険契約に基づく欠く死亡給付請求権は、相続開始後で、その履行期までに年金の種類及び支払期間が受取人であるXらによって指定
⇒相続税法24条1項(平成22年法律第6号による改正前のもの)に規定する定期金給付契約に関する権利であって、同項1号に規定する「有期定期金」で「残存期間が35年を超えるもの」に該当すると主張して、Xらの相続税の各更正処分のうち、不服のある部分の取消しをそれぞれ求めたもの。
相続税法24条1項は、定期金給付契約で当該契約に関する権利を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに関する権利(定期金給付契約に関する権利)の価額は、次に掲げる金額による旨を定めている。
1号 有期定期金については、その残存期間に応じ、その残存期間に受けるべき給付金額の総額に、次に定める割合を乗じて計算した金額。ただし、1年間に受けるべき金額の15倍を超えることができない。
残存期間が35年を超えるもの 100分の20
<原審>
本件各死亡給付請求権は、相続税法24条1項1号に該当する「有期定期金」で「残存期間が35年を超えるもの」に該当⇒X1の取消請求を認容し、X2の取消請求を一部認容。
<控訴>
X2とYが控訴提起。
X1は、原審の請求を拡張し(主位的請求)、これが認容されない場合には、過大に納付した2955万2100円相当の不当利得の返還を求める請求(予備的請求)を追加する内容の附帯控訴を提起。
<判断>
●X2及びYの各控訴について
終身定期金と同様に、本件各死亡給付金の年金支払特約に係る毎期の定期金は、契約締結時までではなく、その履行期(支払時期)までに確定されれば有効に定期金契約が成立。
Xらは、Mに対し、Xの死亡後、本件各死亡給付金請求権の履行期までに年金の種類(確定年金、年金支払期間36年)及び年金の支払額を確定させたといえる。
本来の相続財産の場合、相続人は、被相続人から、その死亡時に有していた財産を、その現況のまま承継取得⇒その取得時である死亡時(承継時・相続開始時)の現況に着目して、相続税法の評価を行う。
but
本件各死亡給付金請求権は、「保険金」(相続税法3条1項1号)に該当するものとし、「相続又は遺贈により取得した財産」とみなされて、同法11条の2の適用を受けることになる「みなし相続財産」である。
みなし相続財産の場合は、相続人は、みなし相続財産を被相続人から承継取得するものではない⇒評価に当たって考慮すべき事情を相続開始時までの事情に限定する論理必然性はない。
相続人は、財産取得の法律上の発生原因たる契約等に基づき原始的に取得し、その権利の具体的な内容はその法律上の発生原因たる契約等によって定められるものと解される。
⇒
相続税法24条1項は、「相続財産について、相続開始時点における時価により評価する」という「原則」を定める相続税法22条にいう「特別の定め」(例外規定)として、本件特約条項に従って相続開始後の履行期までに確定される年金の種類等(本件各指定)を考慮して本件各死亡給付金請求権(基本権)の評価をすることを許容する規定であると解するのが相当。
●X1の附帯請求について
申告が過大であるとしてその内容を是正するについては、特段の事情がない限り、更正の請求という手続以外の方法でこれを主張することは許されない(最高裁昭和57.2.23)。
⇒
特段の事情がないのに、更正の請求という特別の手続を経ることなく、申告額を超えない部分をについてまで取消しを求めるX1の請求(本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分)は、訴えの利益がなく、不適法。
X1は、本件修正申告をしたことにより本件相続に係る相続税額を17億1552万7400円の範囲内で確定させている⇒これを下回る部分についての国の徴税には法律上の原因があり、不当利得は成立せず、X1の本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請求)は、理由がない。
●
①本件各死亡給付金請求権(基本権)について、相続税法24条1項が適用されることを前提とするX1の原審における請求は理由がある⇒全部認容し、X2の請求は原審が認容した限度で理由がある。
②X1の本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分に係る訴えは、訴えの利益を欠き、不適法。
③X1の本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請求。当審における追加請求)は、Yに不当利得返還責任がるとはいえなず、理由がない。
<解説>
●最高裁H22.7.6:
①相続税法(平成15年法律第8号による改正前のもの)3条1項1号の規定によって相続により取得したものとみなされる生命保険契約の保険金であって年金の方法により支払われるもののうち有期定期金債権に当たる年金受給権に係る年金の各支給額については、被相続人死亡時の現在価値に相当する金額として相続税法24条1項1号所定の当該年金受給権の評価額に含まれる部分に限り、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものとして、所得税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)9項15号の規定により所得税の課税対象とならない、
②所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの)207条所定の生命保険契約等に基づく年金の支払をする者は、当該年金が同法の定める所得として所得税の課税対象となるか否かにかかわらず、その支払の際、その年金について所得税法208条所定の金額を徴収し、これを所得税として国に納付する義務を負う。
本件事案は、上記最高裁判決の事案のように相続税の所得税の二重課税の可否が争われたものではなく、相続税法24条1項の適用の可否が、主に同法22条(相続開始時の時価評価の原則を定めた規定)との関係で争われた事案。
●本判決:
みなし相続財産の場合には、相続人は、みなし相続財産を被相続人から承継取得するものではない⇒評価に当たって考慮すべき事情を相続開始時までの事情に限定する論理必然性はない。
相続人は財産取得の法律上の発生原因たる契約等に基づきみなし相続財産を原始的に取得⇒その権利の具体的な内容はその法律上の発生原因たる契約等によって定まる。
⇒
みなし相続財産である死亡給付金請求権に係る相続税法24条1項は、「相続財産について、相続開始時点における時価による評価する」という「原則」を定める同法22条にいう「特別の定め」(例外規定)であると解される。
本件においては、本件各死亡給付金の年金支払特約に係る毎期の定期金は、契約締結時までではなく、その履行期(支払時期)までに確定されれば有効に定期金契約が成立するといえるところ、本件特約条項に従って相続開始後の履行期までの間に確定された年金の種類及び支払期間に係る受取人による指定を考慮して本件各死亡給付金請求権(基本権)の評価をすることができる旨判示。
●国税庁の取扱いの変更
従来:年金の方法により支払を受けることが定められた個人生命保険契約又は個人年金保険契約で、相続開始又は贈与の時において、年金の種類、年金の支払期間が定まっていない場合には、その保険金の支払請求権(受給権)について、相続税法24条を適用せず、同法22条の規定に基づきその保険金を一時金で支払を受ける場合の金額により評価することとして取り扱っていた。
平成26年9月以降:
相続開始又は贈与の時には、年金の種類、年金の支払期間が定まっていない年金の方法により支払を受ける個人生命保険契約又は個人年金保険契約であっても、契約者が年金の方法により保険金の支払を受ける契約を締結し、かつ、保険金の支払事由の発生後に保険金の受取人が年金の種類、年金に受給期間等をしていることが契約により予定されている保険契約に係る保険金の支払請求権(受給権)の価額については、受取人が相続開始又は贈与後、受給開始前に指定を行ったことにより確定した年金の種類、受給期間等を基礎として相続税法24条の規定を適用して算定することとし、従来の取扱いを変更。
また、当該支払請求権(受給権)に基づく年金の雑所得の金額については、所得税法施行令185条の規定を適用し、その年に支払を受ける年金の額から相続税の課税対象とされる部分及びその年金額に対応する保険料の額を控除して計算することとし、従来の取扱いを変更。
判例時報2240
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
- 共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく諫早湾干拓地潮受堤防排水門の開門請求を認容する確定判決に対する請求異議訴訟(2023.05.16)
- 分限免職処分を違法とした原審の判断に違法ありとされた事例(2023.05.14)
- ロードサービスの不正利用についての損害賠償請求の事案(2023.05.14)
- 学校でのいじめ等での国賠請求(2023.05.14)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
「租税」カテゴリの記事
- 財産評定基本通達によるより高額での評価が許される場合(2022.12.19)
- 複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物分割と地方税法73条の7第2号(2022.12.10)
- ふるさと納税と地方交付法に基づく特別交付税減額の可否(2022.12.09)
- 過小資本税制の適用が問題となった裁判例(2021.05.25)
- 第二次納税義務が問題となった事案(2019.01.14)
コメント