ボリビア人である母及び本邦で出生した幼年の子のに特別在留許可(肯定)
東京地裁H26.5.30
入国管理局長が出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決をするに当たり、ボリビア人である母及び本邦で出生した幼年の子らに特別に在留を許可すべき事情があるとはいえないと判断したことにつき、裁量権の範囲を逸脱した違法があるとされた事例
<事案>
Xらは、出入国管理及び難民認定法(「入管法」)所定の退去事由に該当し、かつ、出国命令対象者に該当しない旨の認定⇒口頭審理を請求、更に異議の申出⇒東京入国管理局長から平成24年11月21日付けでXらの異議の申出には理由がない旨の各裁決(「本件各裁決」)を受け、東京入国管理局主任審査官から同年12月5日付けで各退去強制令書の発付を受けた。
<判断>
●Xらに対して在留特別許可を付与しないとの東京入管局長の判断が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであり、本件各裁決に従ってされた各退去強制令書発付処分もまた違法であるとしてとして、これらを取り消した。
●X子らについて
X子らは、日系三世であり定住者の資格で本邦に在留するAの子⇒定住者の資格を取得し得る立場にある。
X子らは、X母の来日後に本邦で出生した者であり、不法残留に至った経緯について責められるべき点はない。
本件各裁定後に出生した三女Bについては、Aによる認知(出生登録)手続を経て定住者の在留資格が付与されており、X子らにとって、定住者であるAとの父子関係が法的に確定されることは、在留特別許可の許否の判断において重要な積極要素となるものであり、本件のおいては、そのことが東京入管の担当者からX母に対して示唆されていた。
Aによる認知手続の前提として必要な諸手続の内容及び進ちょく状況、入管への報告内容、上記諸手続の完了時期など、X子らの認知手続の経緯を総合勘案
⇒東京入管局長において、X母が本国において行っていたX子らとAとの父子関係の確定に関する手続の帰趨をいま暫く待つことなく、その手続の途上であった本件各裁決の時点でX子らに対して在留特別許可を付与しない旨の判断をしたことについては、拙速。
⇒東京入管局長の判断は、社会通念上著しく妥当性を欠き、その裁量の範囲を逸脱したもの。
●X母について
在留特別許可の許否の判断に辺り、消極要素として評価すべき事由(偽装結婚をした上での不法入国等)があることが認められるが、それらの消極要素を重大視することは必ずしも相当ではない。
重要な積極要素又は積極要素として評価すべき事由(日系三世であること、本邦への定着性が認められること、Aとの関係が婚姻の実質を備え、安定・成熟したものであったこと、幼年の子らを監護養育していること等)も相当数ある。
東京入管局長は、X子らについて在留特別許可を認めず退去強制を行うことを前提として、X母の在留特別許可を認めないという判断を行ったことが明らかであるがこのような前提は採り難い。
⇒
X母の在留特別許可に係る判断の基礎となる重要な前提を誤ったものであり、この点に関する瑕疵は重大。
⇒
X母に在留特別許可を付与しないとする東京入管局長の判断は、社会通念上著しく妥当性を欠き、その裁量の範囲を逸脱するもの。
<解説>
X母とAとの間に出生したX子らについて、同人らが在留資格を得るためにはAによる認知(出生登録)の手続が必要である旨の指示が入管においてなされ、X母がこれに従って本国において必要な諸手続を進めていたにもかかわらず、東京入管局長がその完了を待つことなくXらに対して在留特別許可をしない旨の本件各裁決をした。
①東京入管は、X母から上記手続の進捗状況について報告を受けており、X子らとAとの親子関係が近い将来法的に確定するに至るであろうことを容易に予想することができた。
②Xらが出頭申告をしてから違反調査が開始されるまでに約1年8か月が経過するなど、Xらに対する在留特別許可の許否の判断を急いで行わなければならない事情はなかった。
⇒
東京入管局長がX子らとAとの父子関係の確定に関する手続の帰趨をいま暫く待つことなく、その途上であった本件各裁決の時点でX子らに対して在留特別許可を付与しない旨の判断をしたことは拙速であるとの評価を免れず、社会通念上著しく妥当性を欠き、その裁量の範囲を逸脱したものと判断。
X子らについての上記判断を前提とした上で、X母が日系三世であり、かつ、幼少のX子ら(及びB)の監護養育にとって不可欠であることなどを考慮して、X母に対しても在留特別許可を付与すべき旨判断。
日系三世の定住者の子として本邦で出生した幼年の子らについて、その在留資格の取得に必要な手続が入管から指示され、これに従った手続が進められていた途上で、本件各裁決が行われたという特殊な事情に着目し、上記子ら及びその母に在留特別許可を付与しないとした東京入国管理局長の裁量判断を違法としたもの。
判例時報2240
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