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2015年1月 6日 (火)

在留特別許可を付与しないでされた出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があって違法であるとして、同裁決及びこれに基づく退去強制令書発付処分が取り消された事例

大阪高裁H25.12.20   

本法において出生し、裁決時に満7歳で小学校在学中であった子、裁決時までに約17年間(父)及び約15年間本法に在留していた両親を含むペルー国籍の外国人家族4名に対し、在留特別許可を付与しないでされた出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があって違法であるとして、同裁決及びこれに基づく退去強制令書発付処分が取り消された事例

<事案>
X父母は、いずれも短期滞在資格、在留期間90日とする上陸許可を受けて本邦に入国したペルー国籍の外国人であり、X子らは、いずれもX父母が本邦に在留中に、X父母間に出生した子。 
Xらは、大阪入管入国警備官に摘発⇒X父母は、出入国管理及び難民認定法(入管法)24条4号ロ(不法残留)、X子らは、同法24条7号(入管法22条の2第1項に規定する者で、同条3項において準用する20条3項本文の規定又は22条の2第1項に規定する期間を経過して本邦に残留する者)の各退去強制事由に該当するとして、退去強制令書の発付を受けた。
本件は、Xらに退去強制事由が存在することは認めたうえで、本件事情からすれば、Xらには在留特別許可が与えられるべきであったとして、本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分の取消しを求めた事案。
 
<原審>
Xらに在留特別許可を付与しなかった法務大臣の権限の委任を受けた大阪入管局長の判断に裁量権の逸脱・濫用は認められない⇒Xらの請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
原判決を取り消し、Xらに対する本件各裁決及び本件各退去強制令書発付処分をいずれも取り消した。

法務大臣等の在留特別許可を付与しないとの判断は、判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、その判断が重要な事実の基礎を欠く場合や、事実に対する評価が明白に合理性を欠く等により、その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合に限り裁量権の範囲を超え又はその濫用があるものとして違法となる。

法務省入国管理局のガイドライン(本件ガイドライン)は、その性質上、法務大臣等の裁量権を一義的に拘束するものではないものの、本件ガイドラインは、在留特別許可に係る透明性及び公平性を高めるために公表されているもの
⇒その公表の趣旨からしても、裁判所が法務大臣等の判断に裁量権の逸脱や濫用があるといえるかを判断する際に、本件ガイドラインに積極要素・消極要素として記載されている事項は、重要な検討要素となる。

本件ガイドラインには、積極要素のうち、特に考慮すべき積極要素の1つとして、「当該外国人が、本邦の初等・中等教育機関(母国語による教育を行っている教育機関を除く。)に在学し相当期間本邦に在住している実子と同居し、当該実子を監護及び養育していること」が、その他の積極要素の1つとして、「当該外国人が、本邦での滞在期間が長期間に及び、本邦への定着性が認められること」がそれぞれ規定されている。

X二男は、本邦で出生し、以後、X父母に養育され、本件裁決当時、小学校2年に在学中であり、出生後、本邦内での生活体験しかなく、スペイン語の簡単な会話はできるものの、読み書きは全くできず、他方、同世代の日本人と同程度の日本語能力を有している。

X父母は、本邦に不法残留を続け、その間不法就労を継続しているが、他方で、X父は、約17年間、X母は、約15年間の長期間にわたり、それぞれ本邦に在留し、その間、何らの犯罪行為も行わず、X二男出生のころに自ら市町村に外国人登録もして、税金も支払うなど、完全に地元に定着した生活をしていた。

X長女は、本邦で出生し(本件裁決当時満一歳)、これまで本邦でX父母とともに生活している。


本件ガイドラインから窺われる考慮要素からしてXらについては在留特別許可を与えるべき積極要素のみしか見当たらないから、在留特別許可を与えることが相当
 
<解説>
在留特別許可を与えるべきか否かの判断は、法務大臣等の広範な裁量に委ねられており、その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかな場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる(最高裁昭和53.10.4)。

下級審において、法務大臣等の裁量権の逸脱又は濫用の有無を判断するに際しては、近時は、当該外国人に在留特別許可を与えるか否かを判断する際に積極的要素として考慮すべき事情と消極的要素として考慮すべき事情に分けて検討する手法が広く用いられている。

法務省入国管理局は、平成18年10月に、「在留特別許可に係るガイドライン」を策定(平成21年7月改訂)。
同ガイドラインには、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、素行、内外の諸情勢、人道的な配慮の必要性、更には我が国における不法滞在者に与える影響等、諸般の事情を総合的に勘案して行うと明記⇒法務大臣等の裁量権を一義的に拘束するものではない。
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裁判所が法務大臣等の判断に裁量権の逸脱や濫用があるといえるか判断するに際しては、上記ガイドラインに積極要素・消極要素として記載されている事項が重要な検討要素となる。

判例時報2238

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