舞鶴女子高校生殺害事件上告審判決(無罪確定)
最高裁H26.7.8
女子高校生に強いてわいせつな行為をして殺害したとして起訴された事案につき、目撃証言の信用性を否定するなどして事実誤認を理由に有罪(無期懲役)の第一審判決を破棄し無罪とした原判決が是認された事例
・・・舞鶴女子高校生殺害事件上告審判決
<争点>
被告人の犯人性
<立証>
犯行目撃供述、被告人の自白等の直接証拠はもとより、
現場等に遺留された被告人のDNA型、指紋等の有力な間接証拠もない
という脆弱な証拠構造。
検察官が立証の柱としたのは、
①犯行時刻に近い時刻(本件当日午前3時15分頃)に犯行場所に近い歩道上を被告人と被害者が一緒に歩いていたのを、車を運転して出勤する途中に目撃したというDの目撃供述
②被告人が犯人でなければ知り得ない被害者の遺留品(化粧ポーチ、パンティ等)の色等の特徴を説明したという事実
③被告人の供述に犯人でなければ考えられないような変遷や虚偽が認められること
<一審>
③について、・・・そのそれぞれは、自らにかけられた嫌疑を避けようとする単純な態度というべきものであり、これらを総合しても、犯人でなければ考えられないようなものとはいい難い⇒排斥。
①について、Dの目撃供述は信用でき、・・・被告人が被害者と別れた後に別の人物が被害者を殺害した可能性は想定し難い。
②について、被告人が、捜査段階で、自発的に被害者の遺留品である化粧ポーチ及びパンティにつき、その色等の特徴と合致する具体的な供述をしているところ、これらを知っていた理由としては、被告人が犯人であるほかにほとんど考えられない。
⇒被告人が本件の犯人であると強く推認され、被告人の犯人性を肯定。
⇒被告人を無期懲役に。
<控訴> 検察官は、量刑不当を理由に、被告人は、訴訟手続の法令違反、事実誤認を理由にそれぞれ控訴。
<原審>
①について、Dの視認状況が必ずしも良いとはいえず、捜査段階で被告人の写真を単独で見たことなどにより記憶が変容した可能性も否定できない⇒信用性を否定。
②について、捜査機関により意識的にせよ無意識的にせよ行われた示唆や誘導の影響を受けた可能性を完全に排斥することはできず、このような供述をもって、被告人が犯人でなければ知り得ないことを知っていたと評価することはできない。
⇒
被告人が本件の犯人であるとするには合理的な疑いが残り、被告人を犯人と断定した第一審判決は、論理則、経験則等に照らして明らかに不合理
⇒事実誤認を理由に第一審判決を破棄し、無罪判決。
<上告>
検察官が判例違反、事実誤認を理由に上告。
<判断>
●
検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であり、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
●Dの目的供述の信用性について
①Dが目撃したのは、暗い未明の時間帯に車を運転しながら交差点を通過するほんの数秒間であった上、Dは男性よりも手前に立っていた被害者に強い関心を向けており、視認条件に制約があった。
②写真面割り前に、警察官に頼んで被疑者とされていた被告人の顔写真を1枚だけ見せてもらったことにより記憶が具体的に変容した可能性
③捜査が進み取調べを重ねるにつれて、目撃供述が合理的な理由なく、徐々に被告人の特徴と矛盾する部分が消失し、最終的に被告人の特徴と一致するように変遷していっている。
④取り調べ後、同じ団地に住む民生委員に対し、「若い男やと言うてしもうた」、「もっと年が上らしい」などと目撃した男性が若かったと供述したことを後悔するような発言をするとともに、被告人の写真を見せてほしいとまで頼んでおり、事後的に警察の得ている情報等に影響され、目撃した男性の特徴を被疑者とされている被告人の特徴と整合させたいとの思惑を有していた可能性がある。
⇒同様の指摘をした上でDの目撃供述の信用性を否定した原判決は、具体的根拠に基づく合理的なもの。
●被害者の遺留品の特徴に関する被告人の供述について
①捜査機関は、被告人が供述した時点で、既に被害者の遺留品を確保しており、その色等の特徴に関する情報に秘密性があったとはいえない。
②被告人が説明した特徴は、女性用の持ち物や下着としてはごく普通のものであり、形状にも際立った特徴があるともいえない。
③警察官作成の取調べメモの記載からすると、被告人は、化粧ポーチ及びパンティの色等の特徴を当初から明確に述べていたものではなく、当初は曖昧な供述であったものが、多数回にわたる長時間の取調べの過程で、次第に具体的な供述に変容していったものであることが見て取れる。
⇒被告人は、元々遺留品につき正確に把握しておらず、自分にかけられた嫌疑を他人に向けさせようとし、知人Eが被害者の遺留品らしき物を捨てるのを目撃したとの虚偽説明をすることに汲々としながら、何とか遺留品と合致するものを探り当てようとの思惑を持って、取調官の反応を見ながら小刻みに供述していった結果、遺留品の実際の色等の特徴にたどり着いたと見る余地がないではない。
⇒原判断は、具体的根拠に基づく合理的なもの。
判例時報2237
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