出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法とされた事例
東京地裁H26.1.10
在留特別許可をしないでされた出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法とされた事例
<事案>
フィリピン共和国の国籍を有する外国人男性であるXは、出入国管理及び難民認定法(入管法)所定の退去強制手続において、入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定を受け、入管法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決(本件裁決)を受け、退去強制令書発付処分を受けた。
⇒
Xは、在留特別許可をしないでされた本件裁決は裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであり、本件裁決に基づく退去強制令書発付処分も違法なものであるなどと主張し、本件裁決及び退去強制令書発付処分の取消しを求めた。
<判断>
消極要素:
Xは平成9年4月頃に不法入国した後10年以上の長期間にわたり不法在留して不法就労するなど、その入国及び在留の状況は悪質。
積極要素:
①Xと永住者であるBは、平成17年頃から同居して生活を共にし、長男が平成21年2月に出生した後は長男を協力して養育するなど、平成24年5月の本件裁決時におけるXとBの内縁関係は、婚姻の本質を備え、成熟かつ安定したもの。
②長男はダウン症候群、知的障害及び甲状腺機能低下症と診断され、定期的かつ頻繁に通院し服用しており、本件裁決時にもダウン症児であることから定期的な経過観察等の必要が予想された上、知的障害については、療育が必要で、甲状腺機能低下症については定期的な検査等が必要な状態にあった。
長男は、平成21年8月に「永住者の配偶者等」の在留資格を取得しており、本邦においてダウン症児の発達や能力の向上に重要とされる療育や、十分な経過観察ないし治療等を受ける機会がある。
他方、本国においてはダウン症児が必要な療育及び治療等を受ける機会が非常に乏しいことがうかがわれる。
③Xが本国に送還された場合、Bは自ら収入を得ながらダウン症候群等のある長男と幼い二男を養育しなければならず、B、長男及び二男の生活を極めて困難なものにさせる。
上記の積極要素を総合勘案し、さらに、児童の最善の利益を主として考慮すべきことを定めている児童の権利に関する条約3条1や、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されるべきではないとの原則を定めている同条約9条の1の趣旨を参酌すると、在留特別許可の許否の判断に当たり消極要素として考慮されるべき上記の事情が存在し、XとBの間に法的な婚姻関係が存在せず、Bが永住者である外国人にすぎないことを考慮しても、Xに対して在留特別許可をすべきではないとした東京入国管理局長の判断は、考慮すべき積極要素を過小評価したものであって、社会通念に照らし著しく妥当性を欠き、本件裁決は、裁量権の範囲を逸脱、濫用したもので違法。
<解説>
本判決は、最高裁昭和53.10.4を踏まえ、在留特別許可をしないでされた裁決が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であるか否かについて、本件の事案に則して、いわゆる判断過程の統制による審査を行っている。
本判決は、退去強制対象者が永住者と内縁関係にあったにとどまり、かつ、退去強制事由が不法入国である事案について、在留特別許可をしないでされた裁決が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものと判断した事例
一般論として、在留特別許可の許否の判断が法務大臣等の広範な裁量に委ねられていると解され、裁決が取り消される事例が多くはない中、日本人又は永住者と内縁関係にあったにとどまり、かつ、退去強制事由が不法入国である事案について裁決が取り消される場合が限られてくる。
判例時報2237
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