死刑判決に対する再審開始決定と死刑・拘置の執行停止(肯定)
①静岡地裁 H26.3.27 ②東京高裁 H26.3.28
死刑判決に対する再審開始決定において死刑及び拘置の執行が停止された事例(①事件)並びに同拘置の執行停止決定に対する検察官からの抗告が棄却された事例(②事件)
袴田事件第2次再審請求審決定
<概要>
確定判決が死刑判決であったところ、本件原決定は再審を開始する旨決定すると同時に、死刑及び拘置の執行を停止⇒検察官が拘置の執行停止に対し抗告⇒本件抗告審決定は本件原決定を支持して抗告を棄却。
<事案>
Aは、強盗殺人、現住建造物等放火などの被疑者として逮捕。
静岡地方裁判所に起訴。
Aは、犯人性を争って無罪を主張。
事件から1年2か月後となる確定一審の係属中に工場の味噌タンク内から5点の衣類が発見され、確定一審はこれらの衣類は犯行当時犯人が着用し、かつ、Aのものであると認定するなどしてAが犯人であると判断。
⇒Aに死刑を言い渡した。
公訴棄却、上告棄却で一審が確定。
<規定>
刑法 第11条(死刑)
死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
2 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
刑訴法 第448条〔再審開始の決定〕
再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。
②再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。
<原決定>
弁護人が提出した5点の衣類のDNA鑑定結果等の新証拠は、「五点の衣類は犯行着衣であり、かつAのものである」との確定判決の認定につき合理的な疑いを生じさせるものであり、むしろ、同新証拠によって五点の衣類は後日捜査機関によってねつ造されたものであるとの疑いが生じた旨判示し、五点の衣類のDNA鑑定結果等の新証拠は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当する⇒本件について再審を開始。
Aに対する死刑の執行を停止すべきであることは当然。
①刑法11条2項の拘置は、死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続であり、拘置及び絞首が全体として、刑訴法448条2項の「刑」に含まれると解釈できる
②死刑の場合に拘置の執行を停止でいないとすると、懲役刑の場合に、仮に無期懲役であっても、再審開始決定とともにその刑の執行が停止されれば身柄が解放されて自由になることとの不均衡が生じる
③執行停止に死刑を伴う拘置が含まれないとすると、再審公判で無罪の言渡しがあっても確定まで拘置が続かざるを得ないと解されるおそれがあり、これは通常の公判で無罪の言渡しがあれば、勾留されていても身柄が解放されることと比べて不均衡
⇒
刑訴法448条2項は、裁判所の裁量により、死刑のみならず、死刑の執行のための拘置も停止することを許容する趣旨と解すべき。
①再審の審判で無罪になる相当程度の蓋然性が認められる
②請求人が長期間死刑の恐怖の下で身柄を拘束されてきたこと
③五点の衣類という最も重要な証拠が捜査機関によってねつ造された疑いが相当程度あること
④請求人の年齢や精神状態から実効性のある手段を用いて逃走を図るおそれは相当低いと考えられる
⇒
死刑とともに死刑のための拘置の執行も停止する。
検察側は、拘置の執行を停止した本件原決定に対して抗告。
<抗告審>
刑法11条2項の拘置は、死刑執行の一環⇒再審開始決定の際に、刑訴法448条2項に基づき、決定でその執行を停止することができる。
それをするかどうかの判断は、再審開始決定をした根拠、再審公判で無罪判決が言い渡される蓋然性、死刑確定者の身柄保全の必要性等を総合考慮した上での合理的な裁量による。
本件決定をした裁判所の判断が裁量の範囲を逸脱したということはできない。
⇒
抗告を棄却。
<解説>
原確定判決の効力が失効するのは、再審判決が確定した時点(再審判決確定時説)(通説)。
判例時報2235
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