受刑者は選挙権を有しないと定めた公職選挙法11条1項2号の規定は憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反
大阪高裁H25.9.27
受刑者は選挙権を有しないと定めた公職選挙法11条1項2号の規定は憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反する
<事案>
平成22年7月11日に実施された参議院選挙当時、公務執行妨害等により懲役刑に服していたために選挙権を行使できなかった控訴人が、被控訴人国に対し、
①公職選挙法11条1項2号が禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(「受刑者」)に選挙権及び被選挙権の行使を認めていない点において違憲であることの確認、
②控訴人が次回の衆議院議員総選挙において投票することができる地位にあることの確認を求めるとともに、
③国会議員が公職選挙法の改正をしなかったこと等により上記選挙において選挙権を行使できず精神的損害を受けたとして、国賠法に基づき慰謝料100万円の支払を求めた事案。
<規定>
公職選挙法 第11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
二 禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者
三 禁錮以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)
四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者
五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により禁錮以上の刑に処せられその刑の執行猶予中の者
憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
憲法 第43条〔両議院の組織〕
両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
憲法 第44条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
<解説>
選挙権に関する制限規定の合憲性判断基準:
在外邦人の選挙権行使の制限に関する最大判H17.9.14:
「憲法の・・・趣旨にかんがみれば、自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として、国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。」と判示
<原審>
①の訴えは法律上の争訟に該当せず、
②の訴えは原告が既に受刑者でないことから確認の利益を欠く
⇒いずれも却下。
③の訴えについては、合理性の基準を採用し、違憲でない⇒請求棄却。
<判断>
①②については、原審と同一の判断。
③の国賠請求については、
受刑者の選挙権制限の合憲性判断は平成17年最判の厳格な基準によるべきであり、選挙権制限について同最判のいう「やむを得ない事由」が存在するとは言えない⇒当該規定は違憲。
廃止立法不作為が違法の評価を受ける程度に至っていたとは認められない⇒③の請求には理由がないとして控訴を棄却。
判例時報2234
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