英国領バミューダ諸島のリミテッド・パートナーシップの租税法上の主体性(否定)
東京高裁H26.2.5
1.英国領バミューダ諸島の法律に基づいて組成された事業体である「リミテッド・パートナーシップ」はパートナー間の契約関係を本質として、その事業の損益をパートナーに直接帰属させることを目的とするもので、我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものといえないとして、我が国の租税法上の「法人」には該当しないとされた事例
2.英国領バミューダ諸島の法律に基づいて組成された事業体である「リミテッド・パートナーシップ」は民法上の組合に類似した組織形成、運営等がされることを予定したもので、団体としての組織を備え、意思決定において多数決の原則が行われているとはいえない等として、我が国の租税法上の「人格のない社団等」には該当しないとされた事例
<事案>
英国領バミューダ諸島の法律に基づいて組成されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)について、我が国の租税法上の法人該当性が争われたケース。
X(上記LPSかつ特定パートナーシップ(EPS))であるが、日本国内の債権の取得・回収、不動産の取得・買取などを事業目的とする匿名組合の(営業者は日本国内に支店を有するケイマン法人)の匿名組合員(アイルランド法人)との間でスワップ契約を締結することにより、実質的に当該匿名組合契約の損益の分配を得ていた。
Xは、処分行政庁から、Xの平成13年4月から同年末までの事業年度に関し、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金について法人税申告書の提出がなかったとして、法人税についての決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分
⇒
Xは、我が国の法人税法上の納税義務者に該当せず、国内源泉所得である匿名組合契約に基づく利益分配金を受領した事実はないと主張して、Y(国)に対し、
①主位的に、本件各決定に係る納税義務が存在しないことの確認を
②予備的に、本件各決定処分の取消しを求めた。
<争点>
①Xの租税法上の法人該当性(Xが法人税法2条4号の「外国法人」に該当し、同法4条2項による法人税の納税義務を負うか)
②租税法上の人格のない社団等該当性(仮に、Xが「外国法人」に該当しなくても、同法2条8号の「人格のない社団等」に該当し、同法4条2項により収益事業から生ずる国内源泉所得について法人税の納税義務を負うか)
③匿名組合契約に基づく利益分配金について国内源泉所得の有無(Xが同法138条1号所定の「国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得」として、同法施行令177条1項4号所定の「匿名組合契約に基づき利益の分配を受ける権利」により生ずる国内源泉所得を得ていたか)
<原判決>
①Xは、我が国の租税法上の法人に該当するとは認められない。
②Xは租税法上の人格のない社団に当たるということはできない。
⇒
Xは、法人税法上の納税義務者に当たるということはできない。
本件各決定はいずれも違法ではあるが、無効であるとまではいえない。
⇒
主位的請求を棄却し、予備的請求を認容し、本件各決定処分を取り消した。
⇒Yが控訴
<判断>
控訴棄却。
●法人該当性
外国の事業体の法人該当性の枠組み:
①原則として、当該外国の法令の規定内容から、その準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否かによる(法人格付与基準)。
②それに加えて、当該事業体を当該外国法の法令が規定するその設立、組織、運営及び管理等の内容に着目して経済的、実質的に見れば、明らかに我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものといえるかどうか(損益帰属主体性基準)を検討。
②の点が肯定なら我が国の租税法上の法人に該当。
英国領バミューダ諸島の法律に基づいて組成された事業体である「リミテッド・パートナーシップ」が、経済的、実質的にみても、パートナー間の契約関係を本質として、その事業の損益をパートナーに直接帰属させることを目的とするもの。
⇒「法人」に該当しない。
●人格のない社団等該当性
法人格を有しないこと以外の点では法人と同様の実質を有していることが必要。
その識別のためには、
①団体としての組織を備え、②多数決の原則が行われ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④その組織により代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることが要件として観念されるところ、上記4要件が独立して満たされる必要がある。
英国領バミューダ諸島の法律に基づいて組成された事業体である「リミテッド・パートナーシップ」は、民法上の組合(任意組合)に類似した組織形式、運営等がされることを予定したものにすぎず、少なくとも、同法所定の法人の組織、運営及び管理にみられるような、団体としての意思決定機関、業務執行機関又は代表機関が置かれるなどの団体としての組織を備え、意思決定が構成員の多数決の原則が行われているとはいえず、団体としての組織を備えていない
⇒リミテッド・パートナーシップ契約の定めをもって、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているともいえない。
⇒我が国租税法上の人格のない社団等に該当しない。
<解説>
外国事業体であるリミテッド・パートナーシップ(LPS)について、(1)租税法上の法人該当性を肯定した裁判例と(2)否定した裁判例がある。
本判決及び原判決は、損益帰属主体性基準を採用し、法人該当性を消極に判断。
判例時報2235
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