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2014年12月28日 (日)

レブロン義務(米国判例)

■取締役の義務・・・敵対的買収に対する防衛策(2)
   
Revlon, Inc. v. MacAndrews & Forbes Holdings, Inc. 506 A.2d 173 (Del.1986)

<事案> 
6月、P社はR社(Revlon)を話し合いにより1株40~50ドルで買収しようとしたが拒絶。

P社による敵対的公開買付に備え、R社取締役会は、防衛策として、
①社外株式約3000万株のうち500株の買い戻しと、
②R社株式の20%以上の取得者が現れた場合に1株を額面65ドル・金利12%の1年債と交換する権利を当該取得者以外の各株主に与えるというライツプラン(ポイズンピル)の導入を採択。
8月23日、P社は、1株47.5ドルで、R社の全株式を対象に、最初の現金対価公開買付を開始。

R社取締役会は、株主に対してその買付けに応じないよう呼びかけ。
8月29日、防衛策として、額面47.5ドル、金利11.75%、満期1995年の上位劣後債(Notes)等を対価として、自社株式1000万か分の自己買付

このNotesには、独立取締役の承認がない限り、R社による新たな債務負担、資産売却および配当支払が制限されるとの制限条項が付されていた。
⇒(買収後の資産売却等を制限するので)P社による買収を困難にした。
9月24日、R社取締役会は、(自己防衛を断念し、友好的第三者(ホワイトナイト)の助けを得るために)経営陣に対し、R社の買収に興味を持つ第三者と交渉する権限を与えた。

その後もP社は現金対価公開買付を継続し、9月27日に50ドル、10月1日に53ドルまで買付価格を引き上げた。

R社は、(LBO(対象会社の資産等を担保にした借入金を用いて買収し、買収後対象会社の資産売却や収益により当該借入金を返済する方法)の専門会社である)F等と交渉を進め、10月3日、R社取締役会は、Fが、LBOによりR社を1株56ドルの現金対価で買収する契約に同意。
買収を促進するために、R社の複数の事業部門が、合計12.4億ドルで売却される計画になっており、また買収契約の中に、(買収後の資産売薬等を容易にするために)Notesに付された制限条項を破棄する旨の合意が含まれていた。

当該合併内容が公表されると、制限条項が破棄される(と追加債務負担等によりR社の信用が下がる)との懸念から、Notesの市場価格の額面の100%前後から87.5%にまで下落。

Notes所持者から怒りの電話が殺到し、Notes所持者による訴訟提起のおそれが新聞に報じられた。
P社は、10月7日に買付価格を56.25ドルに引き上げ、対抗して10月12日、Fは、R社に対して、次の条件を付して、57.25ドルでの買収を提案
①F以外の者がR社株式の40%を取得した場合、FはR社の重要な2事業部門を、評価額より1億~1.75億ドル下回る5.25億ドルで取得できる((クラウン・ジュエル・)ロックアップ条項)
②R社は、Fとの間でのみ買収交渉を行う(ノーショップ条項)
③この合意内容が実現されなかったり、R社株式の19.9%を超える取得者が現れた場合、R社は、キャンセル料として、Fに2500万ドルを支払う。
④ライツプランおよびNotesの制限条項は、10月3日の合意どおり破棄する。

一方、Fは、新たな社債を交換することにより、下落したNotesの市場価格を額面に維持するようサポートすることに合意。

R社取締役会は、Fのこの買収提案を承認。
P社の支配株主であるM社は、これらの合意が実行に移されることを阻止すべく、暫定的差止命令を求めた。
10月22日、P社は、ロックアップ条項の差止め等を条件に、買収価格を58ドルに引き上げた。

第1審のデラウェア州衡平法裁判所が
①ロックアップ条項、②ノーショップ条項および③キャンセル料につき差止めを認めた。

R社が上訴。
 
<判断>

暫定的差止命令が認められるためには、原告は、
①本案勝訴が合理的に見込みうること、および
②差止められない場合に回復できない損害が発生すること
を証明する必要。
くわえて、
③裁判所は両当事者の利害を衡量する必要。

本判決は、最初に①について検討。
 

R社取締役のとった防衛策のうち、ライツプランの導入およびNotes等を対価とする自己買付については、ユノカル基準を適用し、適法であると判断。 
but一定の条件下では取締役の義務が大きく変わる。

P社が1株50ドル、次いで53ドルにまで買付価格を引き上げたとき、会社の解体が避けられないことは誰の目にも明らかになった。
R社の取締役会が、経営陣に対して、第三者との間で合併または買収について交渉する権限を与えたということは、会社を売りに出したと認識したということ。

これにより、取締役会の義務は、企業体としてのR社を維持することから、株主の利益のために会社売却に当たって企業価値を最大化することに変化した。

買収防衛策に関する議論は当てはまらなくなった。
取締役の役割は、会社という砦の防衛者から、会社の売却に際して、株主のために最善の価格を獲得するという責任を負う競売人に変化


ロックアップ条項について検討:

R社取締役会が、FによるNotes価格のサポートをFとの取引の不可欠な内容としたのは、Notes価格の下落による損失に対してNotes所持者から訴訟により責任を問われることを恐れたから。
株主のために最高価格を取得する義務を負う取締役が、Notes所持者の利益を優先したことは、株主対する忠実義務違反。 

「取締役会が自らの責任を果たすに当たりさまざま利害関係者に配慮することは、それにより合理的に関連する利益が株主に生じる場合には許される。しかし、積極的な買収者の間で会社に対するオークションが進行中であり、目的がもはや会社という企業体を守りまたは維持することではなく、最高価格をつけた者に会社を売却することであるときには、株主以外の者の利益に対する配慮は不適切である」

ロックアップ条項はそれ自体が違法というわけではないが、本件のように、活発なオークションを終わらせて株主の利益を害するものは認められない。

ノーショップ条項も、それ自体は違法ではないが、取締役会が競売人として最高価格で会社を売却する義務を負うという局面では、容認できない。

キャンセル手数料についても、P社の努力を阻害する計画の一部であったので、差止めの対象になる。

⇒衡平法裁判所の結論を支持。

<解説>   
敵対的買収における攻防の一定時点までは、取締役の防衛行為の審査にユノカル基準をそのまま適用できるが、会社の解体(事業の分割売却等により会社の分解)が避けられないことが明らかになったとき、または、会社を売りに出したときには、取締役が競売人としての義務、すなわち、株主の利益のために会社売却に当たって企業価値を最大化する義務(レブロン義務)を果たしたか否かが争点となる。

デラウェア州最高裁判所は、1994年の判決(Arnold v. Society for Savings Bancorp, Inc.)において、レブロン義務は少なくとも以下のいずれかの場合には適用されると整理。
(1)会社が、会社の売却かまたは会社の明らかな解体を伴う事業再編を求めて、能動的な買付競争を開始させる場合
(2)買付者の申出に対抗して、対象会社が長期的戦略を放棄し、会社の解体を伴う代替取引を求める場合
(3)ある取引を承認することにより、会社支配権の売却または変更を帰結する場合

2009年のLyondell Chemical Co. v. Ryan は、レブロン義務は、対象会社の取締役が静観している間は適用されず、会社支配権の変更をもたらす取引に着手した段階で初めて適用されるとした。

米国法判例百選120

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