喫煙禁止地区内での路上喫煙に対する過料を科すためには、違反者に少なくとも過失が必要(過失は肯定)
東京高裁H26.6.26
横浜市空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に関する条例(平成7年9月25日横浜市条例第46号) の趣旨、目的等からすれば、同条例に基づく喫煙禁止地区内での路上喫煙に対する過料を科すためには、違反者に少なくとも過失が必要であるとした上で、その過失が肯定された事例
<事案>
被控訴人は、美化推進員から本件条例に違反していることを告知された上、告知・弁明書に記載及び署名をした後、その場で美化推進員から控訴人市長の名で2000円の過料を科す処分(本件処分)を受けた。
⇒控訴人市長に異議を申し立てたが棄却⇒神奈川県知事に対して審査請求をしたが棄却する旨の裁決
⇒
本件処分が違法であることを主張して本訴を提起し、
①控訴人に対し本件処分の取消しを、②神奈川県知事に対し、裁決の取消しをそれぞれ求めた。
<原審>
・・・本件違反場所の路面表示や標識は、被控訴人がその文字を読み取り、認識することが困難であり、被控訴人は、本件違反場所が喫煙禁止地区内であることを知らなかったし、知らなかったことに過失もない
⇒ 本件処分が違法であるとしてこれを取り消した。
被控訴人の神奈川県に対する裁決の取消請求については、被控訴人の主張する違法が裁決固有の瑕疵とは言えないとしてこれを棄却。
<判断>
本件条例で科される過料処分は本来違法行為とされていない喫煙行為をあえて制限するもので、その主眼が喫煙者に注意喚起をして路上喫煙をさせないことにある
⇒
注意喚起が十分にされていない状態で喫煙する者がいたとしてもそれに制裁を科すことは本件条例の趣旨を逸脱する。
⇒
喫煙者が通常必要な注意をしても路上喫煙禁止地区であることを認識し得なかった場合、すなわち、過失がなかった場合には注意喚起が十分にされていなかったことになるから過料の制裁を科すことはできない。
⇒
本件条例に基づく過料処分には違反者に過失が必要。
地方公共団体における受動喫煙防止のための積極的な取組みが次第に拡大し、控訴人の場合と同様、路上喫煙禁止の表示としては路面表示が一般的となり、喫煙者は、喫煙場所が制限されることを普段から認識しているのが現状
⇒
①あえて路上喫煙する場合ににはその場所が喫煙禁止か否かについて路面表示も含めて十分に注意して確認する義務がある。
②被控訴人がパルナードに侵入する交差点にさしかかった際、路面表示をも十分に注意して確認していれば、路上喫煙禁止であることを認識することが十分に可能であった。
⇒
被控訴人の過失を認定し、本件処分を適法として一審判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却。
<解説>
行政上の義務の履行を確保するための制度に、行政罰があり、行政罰には①行政刑罰と②行政上の秩序罰の2種類がある。
②行政上の秩序罰は、行政上の秩序の維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課すもので刑法総則、刑事訴訟法の適用はないとされる。
行政刑罰と行政上の秩序罰は併科可能との判例(最高裁昭和39.6.5)があるから、両者は区別されているが、その実質的な区別は必ずしも明確ではない。
②行政上の秩序罰には、刑法総則の適用がない⇒
A:違反者の主観的要件である故意又は過失を不要とする説
(・外国人登録法の申請義務を法定期間内にしなかっため過料に処せられた事例で、法の不知の主張に対し、違反者の主観的責任要件(故意又は過失)の具備を必要とせず、客観的に違反事実が認められればこれを科し得るとした裁判例
・法律又は定款に定めた取締役又は監査役の員数を欠くに至った場合に、その先任手続をなすべき代表取締役等が手続を怠った事例で、故意、過失の有無を問わず、過料の制裁を受けるべきものとした裁判例)
B:行政上の秩序罰も制裁である以上、罪刑法定主義、責任主義、比例原則という刑法の原則が基本的に妥当する(宇賀)。
秩序罰も制裁である以上、秩序罰の性質、目的、内容等の諸要素を具体的、総合的に検討した上で、その要否が決せられる。
判例時報2233
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