いわゆる庭内神しである祠の敷地が相続税の非課税財産に当たるとされた事例
東京地裁H24.6.21
いわゆる庭内神しである祠の敷地が相続税法12条1項2号にいう「これらに準ずるもの」に当たり相続税の非課税財産に当たるとされた事例
<事案>
Xが、被相続人の相続財産である土地一筆のうち、庭内神し(屋敷内にある神の社や祠等といったご神体を祀り日常礼拝の用に供されているもの)である弁天財及び稲荷を祀った祠の敷地部分を相続税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)12条1項2号の非課税財産とする内容を含む申告及び更正の請求
⇒Y税務署長が、納付すべき税額を申告額よりも減じるものの、本件敷地は非課税財産に当たらないとしてこれについての課税をする内容を含み、上記更正請求に係る税額を上回る税額とする減額更正処分
⇒本件処分が違法であるとして、その取消しを求めるもの。
<争点>
庭内神しである本件各祠の敷地部分である本件敷地が相続税法12条1項2号の「これらに準ずるもの」に該当し、非課税財産となるか否か。
<規定>
相続税法 第12条(相続税の非課税財産)
次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
二 墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの
民法 第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
<解説>
相続税法12条1項柱書き及び同項2号(以下「本件非課税規定」という。)は、墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるものの財産の価額は、相続税の課税価格に算入しないと定めている。
but
どのような施設・設備が、本件非課税規定の「墓所、霊びよう及び祭具」や「これに準ずるもの」にがいとうするかについては、解釈に委ねられる。
<判断>
「墓所、霊びよう及び祭具」のような直接的な祖先祭祀のための設備・施設でなくとも、当該設備・施設を日常礼拝することにより間接的に祖先祭祀等の目的に結びつくものも含まれ、本件各祠のような屋敷内にある神の社や祠等といったご神体を祀り日常礼拝の用に供されている庭内神しは「これらに準ずるもの」に含まれる。
庭内神しが設置されている敷地部分について、本件非課税規定の立法趣旨や墳墓・霊びょうの屋舎が設置されている一定範囲の敷地部分が「墓所」や「霊びょう」に該当し得ると解されている⇒一律に「これに準ずるもの」に該当しないとするのは相当ではない。
庭内神し等の当該設備とその敷地、附属設備との位置関係や当該設備の敷地への定着性その他それらの現況等といった外形や、当該設備及びその附属設備等の機能の面から、当該設備と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷地や附属設備も当該設備と一体の物として「これらに準ずるもの」に含まれる。
本件各祠とその附属設備及び現況等を子細に検討した上で、本件各祠とその附属設備と本件敷地は、外形上も機能上も当該空間全体を使用して日常礼拝が行われているものと認定。
⇒
本件敷地は、本件各祠と社会通念上一体の物として日常礼拝の対象とされているといってよい程度に密接不可分の関係にある相当範囲の敷地⇒「これらに準ずるもの」に当たる⇒本件処分は違法であって取り消されるべき⇒Xの請求を認容。
<解説>
租税法規独自の固有概念なのか民法897条1項の規定の借用概念なのかはおくとして、少なくとも「民法の精神にのっとり、また国民感情のうえからも、これらの物(祭具、墳墓等)が日常礼拝の対象となっている点にかんがみ、一般の相続財産とは区分して、課税財産から除外されている」という本件非課税規定の立法趣旨
⇒
本件非課税規定の具体的意義の解釈は民法897条1項の祭祀財産の範囲についての解釈を無視するわけにはいかず、むしろ積極的に同条の立法趣旨などの背景事情や解釈を参酌すべき。
国税庁は、本判決確定後の平成24年7月に、庭内神しの敷地について本件非課税規定を適用できる場合について、本判決の判示内容とほぼ同様の取扱いとすることとしている。
判例時報2231
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