府中市議会議員政治倫理条例の二親等規制の憲法21条、22条、29条
最高裁H26.5.27
1.府中市議会議員政治倫理条例(平成20年府中市条例第26号)4条1項及び3項の規定のうち、議員の2親等以内の親族が経営する企業は市の工事等の請負契約等を辞退しなければならず、当該議員は当該企業の辞退届を徴して提出するよう努めなければならない旨を定める部分と憲法21条1項
2.府中議会議員政治倫理条例(平成20年府中市条例第26号)4条1項及び3項の規定のうち、議員の二親等以内の親族が経営する企業が市の工事等の請負契約等を辞退しなければならず、当該議員は当該企業の辞退届を徴して提出するよう努めなければならない旨を定める部分と憲法22条1項及び29条
<事案>
Y市の市会議員であったXが、府中市議会議員政治倫理条例4条3項に違反したとして、議員らによる審査請求、市議会による警告等をすべき旨の決議、議長による警告等を受けた。
⇒
同条1項及び3項の規定のうち、議員の二親等以内の親族が軽絵する企業はYの工事等の請負契約等を辞退しなければならず、当該議員は当該企業の辞退届を徴して提出するよう努めなければならない旨を定める部分(「本件規定」「二親等規制」)は、議員の議員活動の自由や企業の経済活動の自由を侵害するものであって違憲無効。
⇒本件条例4条3項違反を理由としてされた上記審査請求等の一連の手法は違法であると主張⇒Yに対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求める。
<規定>
憲法 第21条〔集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密〕
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
憲法 第22条〔居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由〕
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法 第29条〔財産権〕
財産権は、これを侵してはならない。
②財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
③私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。
地方自治法 第169条〔会計管理者の特別欠格事由〕
普通地方公共団体の長、副知事若しくは副市町村長又は監査委員と親子、夫婦又は兄弟姉妹の関係にある者は、会計管理者となることができない。
②会計管理者は、前項に規定する関係が生じたときは、その職を失う。
地方自治法 第198条の2〔特別欠格事由〕
普通地方公共団体の長又は副知事若しくは副市町村長と親子、夫婦又は兄弟姉妹の関係にある者は、監査委員となることができない。
②監査委員は、前項に規定する関係が生じたときは、その職を失う。
<原審>
二親等規制は、憲法21条1項(で保障される議員の議員活動の自由)並びに憲法22条1項及び29条(で保障される企業の経済活動の自由)に違反し違憲無効。
⇒本件条例に基づく一連の審査請求等は国賠法上違法
⇒Xの慰謝料等の請求を一部認容。
<判断>
本件規定は憲法21条1項並びに憲法22条1項及び29条に違反しない旨判断
⇒
原判決中Y敗訴部分を破棄し、Xが主張するその他の違法事由の有無等について更に審理を尽くさせるため、同部分を原審に差し戻した。
<解説>
●
憲法21条1項適合性
◎合憲性判断の枠組み等
精神的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性に関する最高裁判例(最高裁昭和58.6.22、最高裁H4.7.1):
当該自由に対する制約が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、当該目的のために制約が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を衡量して決せられるべき。
~合憲性判断の枠組みとして利益衡量論を採ることを明らかにしている。
~明示するか否かは別にして、合憲性判断の基本的枠組みとして踏襲。
本件規定による二親等規制の立法目的のための規制の必要性と、これにより制約を受ける議員の議員活動の自由の内容及び程度、具体的な制約の態様及び程度等を総合的・相関的に衡量して判断。
利益衡量論を採用する最高裁判決においては、その利益衡量の際の判断指標として、事案に応じて一定の厳格な基準(明白かつ現在の危険の原則、必要最小限度の原則、LRAの原則など)ないしはその精神を併せ考慮したものがみられるが、本判決においては特にこれをうかがわせる判示はみられない。
←
①本件条例は地方議会の内部的自律権に基づく自主規制としての性格を有しており、裁判所はその自主的な判断を尊重すべきという意味において議会に広範な立法裁量が認められるべき。
②二親等規制は、議員活動の自由を直接制約するものではなく、議員が二親等ない親族企業の辞退届を徴して提出するよう努める義務に違反した場合に、議会の内部的自律権に基づく事実上の措置として警告や辞職勧告等を受けることがあり得ることにとどまる(地方議会における議員に対する辞職勧告決議は、地方自治法135条1項の懲罰ではなく、同法96条の議会の議決事項でもないから、法的効果を伴わない事実上のものであると解される)。
◎立法目的(規制の必要性)について
本判決は、本件規定による二親等規制の目的について、本件条例の趣旨及び目的に(1条及び2条)や本件条例4条1項及び3項等の文言に鑑み、
「議員の職務執行の公正さに対する市民の疑惑や不信を抱くような行為の防止を図り、もって議会の公正な運営と市政に対する市民の信頼を確保すること」にあるものと解する。
◎規制手段の必要性及び合理性について
本判決は、憲法21条1項適合性のの判断における規制手段の必要性及び合理性について、(1)規制の対象・範囲の適否の問題と、(2)規制の内容・程度の適否の問題とに分けて考察
(1)規制の対象・範囲の適否(議員の経営への実質的な関与の運無を問うことなく、二親等内親族企業であるという基準をもって規制対象とすることの適否)
①議員が実質的に経営する企業であるのにその経営者を名目上二親等以内の親族とするなどして地方自治法92条の2の規制の潜脱が行われるおそれや、議員が二親等以内の親族のために当該親族が経営する企業に特別の便宜を図るなどして議員の職務執行の公正が害されるおそれがあることは否定し難い。
②二親等内親族企業がYの工場等を受注することは、それ自体が議員の職務執行の公正さに対する市民の疑惑や不信を招くものであること
③議員の当該企業の経営への実質的な関与の有無等の事情は、外部の第三者において容易に把握し得るものではなく、そのような事実関係の立証や認定は困難を伴い、これを行い得ないことも想定されるから、仮に上記のような事情のみを規制の要件とすると、その規制の目的を実現し得ない結果を招来することになりかねない。
⇒
二親等内親族企業という基準をもって規制することにつき、その規制の対象・範囲が立法目的に照らし広範に過ぎるとはいえず、その必要性及び合理性が認められる。
(2)規制の内容・程度の適否の問題
①本件条例4条3項は、議員に対して二親等内親族企業の辞退届を提出するよう努める義務を課すにとどまり、辞退届の実際の提出まで義務付けるものではないから、その義務は議員本人の意思と努力のみで履行し得る性質のもの
②議員がこのような義務を履行しなかった場合には、本件条例所定の手続を経て、警告や辞退勧告等の措置を受け、審査会の審査結果を公表されることによって、議員の政治的立場への影響を通じて議員活動の自由についての事実上の制約が生ずることがあり得るが、これらは議員の地位を失わせるなどの法的な効果や強制力を有するものでははい。
⇒
本件規定により議員に課される義務は必ずしもその履行が困難なものではなく、これに違反した場合に生ずる制約も事実上のものにとどまるといえ、議員の議員活動の自由を過度に制約するものとはいえない。
⇒規制手段としての必要性及び合理性が認められる。
●
憲法22条1項及び29条適合性
◎合憲性判断の枠組み等
経済的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性に関する最高裁判例:
最高裁昭和50.4.30:
「これらの規制措置が憲法22条1項にう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない」
「目的との関連性、及びこのような目的を達成する手段としての必要性と合理性を検討し、この点に関する立法府の判断がその合理的裁量の範囲を超えないかどうかを判断する」
~
利益衡量論の手法を基礎とした上で、上記の諸事情を比較考量して立法府の判断がその合理的裁量の範囲内にあるか否かを判断する枠組みを採用。
◎憲法22条1項及び29条適合性
憲法22条1項及び29条適合性の判断において、憲法21条1項適合性の判断において説示した点に加え、規制の内容・程度の適否の観点から、
①規制の対象となる企業の経済活動はYの工事等に係る請負契約等の締結に限られること、
②二親等内親族企業であっても、上記の請負契約等に係る入札資格を制限されるものではないこと、
③本件条例上、二親等内親族企業は上記の請負契約等を辞退しなければならないとされているものの、制約を課するなどしてその辞退を法的に強制する規定は設けておらず、二親等内親族企業が上記の請負契約等を締結した場合でも当該契約が私法上無効となるものではない。
⇒
規制手段としての必要性や合理性に欠けるものとはいえず、二親等規制を定めた市議会の判断はその合理的な裁量の範囲を超えるものではない
●
本件条例の二親等規制につき、議員であるXが、二親等内親族企業である本件会社の経済活動の自由を侵害するものとして、その違憲性を主張することの可否(違憲主張適格の有無)
本件規定のうちYの工事等の請負契約等につき二親等内親族企業の辞退の義務を定める部分とその辞退届につき議員の提出の努力義務を定める部分との間に密接不可分な一体性があった事案(前者の合憲性は後者の合憲性に影響を及ぼし得る)。
自己に適用される規定と適用されない規定とが密接不可分の関係にある場合に後者の規定に係る違憲主張適格を肯定する見解の立場⇒本件はその適格を肯定し得る事案。
判例時報2231
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
- 土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)(2023.06.01)
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント