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2014年10月21日 (火)

反復累行された一連の暴行による傷害の罪数と訴因の特定

最高裁H26.3.17   

1.同一の被害者に対し一定の期間内に反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実について、包括一罪とされた事例
2.包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について、訴因の特定に欠けるところはないとされた事例 
 
<事案>
殺人、傷害致死、死体遺棄各1件と傷害7件からなる事案であるところ、このうち傷害2件について、一定の期間内に 多数回の暴行を加えたことによる傷害の公訴事実について訴因不特定の主張があり、その前提として包括一罪とみてよいかが問題となったもの。
各傷害事件の訴因は、約4か月又は約1か月という一定期間内に被害者に対し繰り返し暴行を加え、傷害を負わせたことが、それぞれ1つの傷害の公訴事実として記載されており、個別機会の暴行の日時等や、それら暴行に対応する傷害結果の発生を個々に特定して記載するものではなかった。

<規定>
刑訴法 第256条〔起訴状、訴因、罰条、予断排除〕
③公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。

<判断>
検察官主張に係る、一連の暴行によって各被害者に傷害を負わせた事実は、いずれの事件も、約4か月間又は約1か月という一定の期間内に、被告人が、被害者との上記のような人間関係を背景として、ある程度限定された場所で、共通の動機から繰り返し犯意を生じ、主として同態様の暴行を反復累行し、その結果、個別の機会の暴行と傷害の発生、拡大ないし悪化との対応関係を個々に特定することはできないものの、結果は一人の被害者の身体に一定の傷害を負わせたというものであり、そのような事情に鑑みると、それぞれ、その全体を一体のものと評価し、包括して一罪と解することができる。そして、いずれの事件も、上記1の訴因における罪となるべき事実は、その共犯者、被害者、期間、場所、暴行の態様及び傷害結果の記載により、他の犯罪事実との区別が可能であり、また、それが傷害罪の構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにされているから、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。
 
<解説>
●罪数
本件2事件の事実関係を踏まえた上で、学説が包括一罪を認める根拠とし、従来の判例も前提としてきたと考えられる、法益侵害の一体性と主観面を含む行為の一体性に着目して、「全体を一体のものとして評価し、包括して一罪と解することができる」旨を判示。 

●訴因の特定 
一般に、訴因の機能、目的は、①審判対象の画定と、②被告人に対する防御範囲の明示の2つがある。

判例も、刑訴法256条3項の規定の所以は、「裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防御の範囲を示すことを目的とするものと解される」(最高裁昭和37.11.28)と判示。

A:識別説(実務):
両機能のうち前者を重視し、訴因は、他の犯罪事実と識別し得る程度の記載を要し、それで足りる(審判対象が画定されれば、同時に防御範囲も明示されるから、後者の機能も果たされる)

B:防御権説

常習犯、営業犯、包括一罪の事案では、犯罪を構成する個々の行為の個性・独自性は捨象されることから、その個別の特定は不要であり、全体として特定(他の犯罪事実との区別・識別)されていれば足りるとの立場(判例)。

本決定は、包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について、本件のような訴因、すなわち、個別機会の暴行の日時等が記載されておらず、各機会の暴行と傷害の発生、拡大等との対応関係が個々に特定されていない訴因であっても、共犯者、被害者、期間、場所、暴行の態様及び傷害結果を記載することをもって、訴因の特定に欠けるところはない旨判示

これまでの判例と同様の立場からの判断。

判例時報2229

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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