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2014年10月 1日 (水)

ダム建設についての住民訴訟の控訴審判決

東京高裁H26.3.25   

1.地方公営企業管理者がダム使用権設定申請を取り下げる権利の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める訴えが不適法であるとして却下された事例
2.地方公営企業管理者のダム建設のための建設費負担金の支出及び知事のダム建設に係る受益者負担金の支出の違法性が否定された事例 

<事案>
流域である茨城県の住民らが提起した住民訴訟に対する控訴審判決。

地方自治法242条の2第1項1号、3号及び4号に基づき、
①八ツ場ダムは茨城県にとって利水上の必要性を欠くから、地方公営企業管理者である茨城県企業局長(Y1)は負担金支出による損害を免れるため国土交通大臣に対しダム使用権設定申請を取り下げる権利を行使すべき財務会計上の義務を負い、これを行使しないことは違法に財産管理を怠る事実(地方自治法242条1項)に当たるとして、Y1に対し、ダム使用権の設定申請を取り下げる権利の行使を怠る事実(地方自治法242条1項)に当たるとして、Y1に対し、ダム使用権の設定申請を取り下げる権利の行使を怠ることの違法確認を求め、
②同ダムは利水上及び治水上の必要性がないのに建設されているものであると主張して、Y1に対し利水関係の負担金の支出の差止めを、茨城県知事(Y2)に対し治水関係の負担金の支出及び利水関係のY1の負担金の補助のための繰出金の支出の差止めを求め、
③Y1及びY2に対し、その地位にあった者を相手方として既支出金相当額の損害賠償請求をすることを求めた

<規定>
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求

地方自治法 第242条(住民監査請求) 
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

地方自治法 第237条(財産の管理及び処分) 
この法律において「財産」とは、公有財産、物品及び債権並びに基金をいう。

地方自治法 第238条(公有財産の範囲及び分類) 
この法律において「公有財産」とは、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(基金に属するものを除く。)をいう。
・・・
四 地上権、地役権、鉱業権その他これらに準ずる権利
・・・・
七 出資による権利
.
<解説>
●ダム使用権設定申請を取り下げる行為 
住民訴訟地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とする民集訴訟
その対象となる行為は、財務会計上の行為又は事実としての性質を有する行為、すなわち地方自治法242条1項に定める公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行債務その他の義務の負担、公金の賦課・徴収を怠る事実並びに財産の管理を怠る事実に限られ、財務会計上の行為又は事実としての性質を有しない一般行政上の行為又は事実は住民訴訟の対象ではない(最高裁H2.4.12)。

「財産の管理を怠る事実」の「財産」とは、公有財産、物品、債権及び基金であり(法237条1項)、公有財産とは「地上権、地役権、鉱業権その他これに準ずる権利」(238条1項4号)及び「出資による権利」(同項7号)が含まれる。
4号の「その他これに準ずる権利」とは、永小作権、漁業権等の法律上確立した用益物権又は用益物権的性格を有する権利をいい、7号の「出資による権利」とは、株式会社に対する出資等をいう。

本判決は、地方公営企業管理者が負担金支出による損害を免れるためダム使用権設定申請を取り下げる権利を行使すべき財務会計上の義務を負い、これを行使しないことは違法に財産管理を怠る事実(地方自治法242条1項)に当たるのと主張を排斥し、ダム使用権の設定申請を取り下げる権利は、地方自治法237条以下に定める「財産」に該当せず、これを行使しないことは財務会計上の財産管理行為に当たらないと判示⇒その行為を怠る事実が違法であるとの確認を求める訴えは不適法であるとして却下

●建設費負担金の支出
本判決:
Y1らは特定多目的ダム法の定めに従い、国土交通大臣の納付通知に基づいて建設費負担金及び繰出金を納付する義務を負うその支出行為を違法というためには、国土交通大臣の納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり、又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があることを要する
but
利水に関する茨城県の事情に照らせば、国土交通大臣の納付通知にそのような違法ないし瑕疵があるとは認められない。

住民訴訟において、財務会計上の行為に先行する原因行為の違法が主張される場合、その違法の主張をどのように位置づけるかは、いわゆる違法性の承継の問題として論じられており、多数の最高裁判例がある。

違法が主張される原因行為は事実行為、人事上の処分、契約等様々であり、必ずしも財務行為とは限らない。

最高裁昭和60.912:
非財産行為(分限免職処分)を原因行為とする財務会計上の行為について、「地方自治法242条の2の住民訴訟の対象が普通地方公共団体の執行機関又は職員の違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限られることは、同条の規定に照らして明らかであるが、右の行為が違法となるのは、単にそれ自体が直接法令に違反する場合だけではなく、その原因となる行為が法令に違反し許されない場合の財務会計上の行為もまた、違法となる

最高裁は、行政処分が当然無効となる瑕疵の明白性について、処分の外形上客観的に処分庁の誤認が一見看取できる程度のものであることを要する(最高裁昭和44.2.6)。

本判決は、このような観点に基づき、原因行為である国土交通大臣の納付通知の違法性を判断。

Y1がダム使用権設定申請の取下げをしないことも建設負担金支出の違法事由であると主張。
but
本判決は、ダム使用権設定申請の取下げをしないことが財務会計行為としての財産管理行為に当たらない以上、その違法確認請求が許されないのと同様に、その違法を主張して公金支出の差止め又は損害賠償を求めることも許されないと判示。

●納付通知に基づく受益者負担金の支出 
本判決:
建築費負担金と同じく、Y2は、河川法の定めに従い、国土交通大臣の納付通知に基づいて受益者負担金を納付する義務を負う
その支出行為を違法というためには、国土交通大臣の納付通知に重大かつ明白な違法ないし瑕疵があり、又は外形上一見して看取できる違法ないし瑕疵があることを要する

治水に関する茨城県の事情に照らせば、国土交通大臣の納付通知にそのような違法はないし瑕疵があるとは認められない。

判例時報2227

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