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2014年10月 5日 (日)

公判前整理手続で確認された争点に明示的に掲げられなかった点についての認定の可否(適法)

最高裁H26.4.22   

公判前整理手続を終了するに当たり確認された争点を明示的にかかげられなかった点につき、公判手続で争点として提示する措置をとることなく認定した第一審判決に違法はないとされた事例 

<事案>
被告人が、過去に離婚事件の相手方に就いた知人弁護士の被害者を恨み、その拉致・殺害の目的で被害者方に侵入した上、被害者に対し、殺意をもって、刃物と突き出して心損傷等を生じさせ、よって、左胸腔内出血により死亡させて殺害したほか、その際、けん銃を適合実包と共に携帯所持し、さらに、上記刃物を不法に携帯したという住居侵入、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実により第一審で有罪判決。 

<規定>
刑訴法 第335条〔有罪の判決〕
有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
②法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。

刑訴法 第413条〔破棄差戻し・移送、自判〕
前条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し、又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、上告裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

<原判決>
理由齟齬の主張を排斥する判断をし、その余の控訴趣意に対する判断を省略した上、職権で、第一審判決は、「罪となるべき事実」において、公訴事実に記載されていなかった「被告人を殺害しようと向けていたけん銃の引き金を引いた。ところが事前の操作を誤っていたため弾が発射されず」という事実を認定した点(「本件判示部分」。その事実を「本件未発射事実」。)を取り上げ、第一審判決は、本件判示部分につき、訴因変更手続を経ることなく素因を認定し、あるいは、争点として提示するなどの措置(「争点顕在化措置」)をとることなく訴因類似の重要事実を認定したものであって、訴訟手続の法令違反がある
⇒第一審判決を破棄し、事件を第一審裁判所である秋田地裁に差し戻した。
⇒検察官が上告。

<判断>
上告趣意が適法な上告理由に当たらないとした上、所論に鑑み、職権でもって調査すると、原判決は、刑訴法411条1号により破棄を免れない⇒事件を原裁判所である仙台高裁に差し戻した。

「第一審判決は、判文全体を通覧すると、本件判示部分を住居侵入後の殺害行為に至る経過として認定したものと解され、第一審判決が、本件判示部分を、訴因変更手続を経ずに認定した点に違法があったとは認められない

「第一審の公判前整理手続において、本件未発射事実については、その客観的事実について争いはなく、けん銃の引き金を引いた時点の確定的殺意の有無に関する主張が対立点として議論されたのであるから、同手続を終了するに当たり確認した争点の項目に、上記経過に関するものに止るこの主張上の対立点が明示的にかかげられなかったからといって、公判前整理手続において争点とされなかったと解すべき理由はない。」⇒「第一審判決が、本件未発射事実を認定するに当たり、この主張上の対立点につき争点顕在化措置をとらなかったことに違法があったとは認められない。」
 
<解説>
●訴因変更の要否 

有罪を言い渡す判決書には、刑訴法335条1項により罪となるべき事実のほか、事案に応じて犯行の経過・情状に関わる事実を記載する例もある。

何を犯罪事実として認定し、あるいは単に経過又は情状として認定したのかという問題は、当該判決の意思解釈の問題⇒基本的に判文に照らして判断される(最高裁昭和41.11.10)。

裁判員裁判⇒「罪となるべき事実」に関しては、事案に応じ、訴因に記載された事実のみをそのまま記載するのではなく、情状又は経過を認定した部分も併せて簡明に記載する例。

かつてのような、犯行に至る経緯を関連性の薄いものも含めて長々と記載するのとは異なり、違法性・有責性の観点から量刑を左右する事情をその内実とする社会的実体を伴う犯罪事実が記載されるべきであるという考え方

第一審判決の判文~本件未発射事実は、住居侵入に及んだ後から被害者に本件刃物で心損傷を負わせるまでの一連の事実の中に記載されている

第一審判決は、本件判示部分を犯罪事実として認定したものとはいえず、経過として認定したものと解するのが自然
本件判示部分を、訴因変更手続を経ずに認定した点に違法があったとはいえない

●争点顕在化措置の要否

裁判所が争点顕在化措置をとらずに事実認定をした場合不意打ちの違法があるとされ得る(最高裁昭和58.12.13)

どのような場合にかかる違法があるかについては、学説上、当該事実の重要性と審理の経過の両面から検討するものと理解。

公判前整理手続は「充実した公判審理」の実現を目的とする手段⇒そこで行われる「争点」の整理は、核心となる主張上の対立点こそが公判審理の対象の中心となるよう、いわば公判審理の枠組みを提示する運用が目指されるべきものであり、主張上の対立点がすべて「争点」とされなければならないというような硬直的な運用が求められているものではない。

公判前整理手続を終了するに当たり確認される「争点」についても核心的な主張上の対立点を掲げていくという運用は制度の趣旨に沿ったものといえる。

上記の主張上の対立が核心的な「争点」であったとは言い難く、前記の制度の趣旨からすれば、これが争点整理の結果に掲げられていないからといって、およそ主張上の対立点ではなくなったと解する理由はない。 
実際、上記主張上の対立点について、主張立証のいずれの面からも実質的な攻撃防御を経ている。

判例時報2227

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