身体障害者である原告に対し、自動車保有要件を満たさないことを理由としてされた生活保護廃止処分及びその後の生活保護申請に対する却下処分の違法性(肯定)
大阪地裁H25.4.19
身体障害者である原告に対し、自動車保有要件を満たさないことを理由としてされた生活保護廃止処分及びその後の生活保護申請に対する却下処分について、原告の上記各処分当時自動車保有要件を満たしていたとして、上記却下処分を取り消した上、上記各処分の国会賠償法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めて原告の国家賠償請求が一部認容された事例
<事案>
平成18年11月、原告に対して生活保護開始決定
平成19年4月、生活保護を廃止する処分
平成21年4月再度生活保護の申請⇒福祉事務所長はこれを却下
さらに生活保護の申請⇒同年7月生活保護開始決定
原告が、出訴期間内の行政処分である本件却下処分の取消しを求めるとともに、本件各処分によって原告に生じた経済的・精神的損害等についての国賠請求。
<争点>
①当該自動車保有要件自体の違憲性及び違法性
②原告が本件各処分当時自動車保有要件該当性を満たしていたか否か
<解説>
生活保護の実施要領:
「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知)(「問答」)が、障害を有する保護対象者に対して自動車の保有を認めるか否かについての要件を定める。
<判断>
●
生活保護法の趣旨及び目的に照らして、一定の経済的支出を強いられる資産である自動車の保有の可否は、処分するよりも保有して活用する方が生活維持及び自立助長に実効性があり、維持費等の経済的支出が社会通念上是認できると認められるような事情があるかという観点から検討されるべき⇒処分価値がない資産であるからといって当然に自動車の保有が認められるということにはならない。
自動車の保有及び利用が身体障害者にとって一般的に必要不可欠であるとはいえないものの、その障害の状況等により、自動車を保有する必要性が高く、維持費等の経済的支出が社会通念上是認できる場合もあり得るところ、自動車保有要件はそのような観点から具体的基準を示したものであって一応の合理性を有する。
⇒自動車保有要件自体の違憲性及び違法性を否定。
●
原告の障害の状況、病院への通院状況及び自動車の維持費等の事情をそれぞれ前記問答が定める各要件に当てはめ、本件各処分時において原告が自動車保有要件を満たしていた。
⇒本件各処分はいずれも違法。
●
国賠請求について、福祉事務所長は、生活保護法の趣旨及び目的に従って問答を解釈適用し、身体障害者である原告が自動車保有要件を充足しているかどうかについて十分に検討すべき職務上の注意義務を尽くしたとはいえない
⇒本件各処分についての国賠法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めた。
<解説>
本判決は、問答の定める具体的基準自体の合理性を認めつつ、その解釈運用に当たっては、生活保護法の趣旨及び目的等を踏まえた上で、保有の必要性及び相当性を総合的に勘案して判断することが求められる。
傍論の判示ではあるが、自動車の保有が認められる場合に、これを通院以外の日常生活上の目的のために利用することは、生活保護受給者の自立助長及びその保有する資産の活用という観点からむしろ当然に認められる旨判断。
判例時報2226
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