覚せい剤の密輸入事件について、共犯者供述の信用性を否定して無罪とした第一審判決には事実誤認があるとした原判決に、刑訴法382条の解釈適用の誤りはないとされた事例
最高裁H26.3.10
覚せい剤の密輸入事件について、共犯者供述の信用性を否定して無罪とした第一審判決には事実誤認があるとした原判決に、刑訴法382条の解釈適用の誤りはないとされた事例
<事案>
覚せい剤密輸入事件について、裁判員裁判による第一審が被告人に無罪を言い渡した⇒控訴審が事実誤認を理由に破棄、差戻し⇒被告人が上告。
<規定>
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
<判断>
刑訴法382条の事実誤認の意義について、「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう」とし、「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」(最高裁H24.2.13)
第一審判決がA供述の信用性を否定した理由の1点目である「通話記録との整合性」について、第一審判決は、受信が記録されていないなどの通話記録の性質に十分配慮せず、その有する証拠価値をも見誤り、それとA供述との整合性を細部について必要以上に要求するなどした結果、A供述全体との整合性という観点からの検討を十分に行わないまま両者が整合しないと結論付けた
⇒経験則に照らし不合理な判断。
2点目の「被告人以外の指示者の存在可能性」についても、第一審判決は抽象的な可能性のみをもってA供述の信用性を否定
⇒この点の判断も経験則に照らし不合理な判断。
これと同旨の説示をして第一審判決を破棄した控訴審判決には刑訴法382条の解釈適用の誤りはなく、事実誤認もない。
⇒被告人の上告を棄却。
<解説>
最高裁H24.2.13:
「控訴審は、第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、当事者の訴訟活動を基礎として形成された第一審判決を対象とし、これに事後的な審査を加えるべきものである。第一審において、直接主義・口頭主義の原則が採られ、争点に関する証人を直接調べ、その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され、それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると、控訴審における事実誤認の審査は、第一審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものである」
判例時報2224
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