金融商品取引法21条の2に基づく損害賠償金が所得税の課税対象とならないとされた事例
神戸地裁H25.12.13
金融商品取引法21条の2に基づく損害賠償金が所得税の課税対象とならないとされた事例
<事案>
営利を目的として株式を継続的に売買していた原告は、平成18年、保有していたC社株式につき、有価証券報告書の虚偽記載の公表により株価が暴落して損害を被った⇒金商法21条の2に基づく損害賠償等を求める訴訟を提起し、認容額についてC社から支払を受けた。
処分行政庁が、本件損害賠償金等が所得税の課税対象に当たるとして、所得税額等更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分⇒原告らが、本件損害賠償金等は所得税法9条1項16号(現行法では17号)を受けた所得税法施行令30条2号所定の「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」に当たり、非課税所得に該当するとして、各処分の取消しを求めた。
<規定>
所得税法 第9条(非課税所得)
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十七 保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項(定義)に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの
<争点>
本件損害賠償金が非課税所得に当たるかどうか
<被告の主張>
①取得時差額(本来あるべき市場株価と現実の市場価格との差額)相当の損害を被ったと認定⇒本件損害賠償金はC株式の取得費を補てんするもの。
②当該取得費は虚偽記載の公表の日の属する平成18年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入される
⇒
本件損害賠償金は「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」(令30条柱書き括弧書き)に当たり、非課税所得に該当しない。
<判断>
旧証取法21条の2所定の虚偽記載等により生じた損害の性質及び発生時期:
虚偽記載等による損害は、その後の処分を待たずに、虚偽記載等の公表時点で株式の下落分として現実に発生する。
⇒
このような損害の性質及び発生時期等に照らして、別件事件判決が認定した損害は、必要経費について規定した所得税法37条1項所定の「別段の定め」である法51条4項に定められた「雑所得を生ずべき業務の用に供され又はこれらの所得の起因となる資産」たる株式に加えられた損失に当たり、本件損害賠償金によって補てんされる結果、同項により、平成18年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入されないこととなるから、本件損害賠償金は「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」に当たらない。
必要経費に算入された損失に係る金額につき、後になって損害賠償金を得た場合、遡って損失が生じた年分の必要経費の金額を修正することは法51条4項が当然に予定してる。
以上のような処理は、実質的に見ても法令及び令の趣旨に合致する。
←
①本件損害賠償金は、株式の価値が失われることによって原告らが被った損害を回復させたものにすぎず、原告らに担税力のある利得をもたらすものではない⇒令30条が同条所定の損害賠償金を非課税所得とした趣旨が当てはまる。
②原告らが株式の取得に実際に要した金額のうち、別件事件判決が認定した損害に相当する部分は、上記公表後の株式の売却の収入金額に寄与しておらず、単に売却以前に失われた株式の価値を本件損害賠償金によって回収したにすぎない⇒本件損害賠償金によって補てんされた損害を必要経費に算入しないことは、所得の源泉となる収入金額のうち投下資本の回収部分に課税が及ぶことを避けるという法37条1項の本来の趣旨に合致する。
③令30条柱書き括弧書きは、非課税所得の中に、必要経費を補てんするための金額が含まれている場合に、当該金額が必要経費として控除されるとともに非課税として控除されることにより二重の控除がされることを防ぐ趣旨にでたものであり、法51条4項所定の資産の損失について受ける損害賠償金については、必要経費に含めた上で令30条柱書き括弧書きにより損害賠償金に課税するんではなく、法51条4項において先に必要経費の方から除くことによって、二重の控除を回避していると解されるところ、本件損害賠償期によって補てんされた損害を必要経費に算入しないことは令30条柱書き括弧書きの趣旨にも合致する。
本件損害賠償金は資産に加えられた損失を回復されるものであるから、「収入金額に代わる性質を有するもの」(令94条1項柱書き)にも該当しない。
<解説>
商品先物取引に係る不法行為に基づく損害賠償金として支払われた和解金が非課税所得に該当すると判示した裁判例(名古屋高裁H22.6.24)。
本判決は、弁護士費用相当額の賠償金についても、前記福岡高裁判決とは異なり、その全額が非課税所得になると判断。
判例時報2224
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