会社更生法に基づく更生手続において過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことが平成23年法律第114号による改正前の国税通則法23条1項1号所定の事由に該当するとはいえないとされた事例
東京地裁H25.10.30
会社更生法に基づく更生手続において過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことが平成23年法律第114号による改正前の国税通則法23条1項1号所定の事由に該当するとはいえないとされた事例
<事案>
管財人(原告)は、平成10年7月12日、右の更生債権者表の記載が更生債権者等に対して確定判決と同一の効力を有するに至った(会社更生法150条1項、3項)ことを踏まえ、本件更生会社が納付した平成9年4月1日から平成22年3月31日までの13期の事業年度(本件各事業年度)の法人税について、更生債権として確定した過払金返還請求権に係る貸付金の利息又は遅延損害金として支払を受けたものが収益として計上されていた分につき利息制限法上の制限利率により引き直して本件各事業年度のあるべきであった法人税額を計算すると2374億6470万6240円が還付されるべきことになる
⇒国税通則法23条2項1号に基づき、更正の請求
⇒新宿税務署長は、同年11月28日、更正をすべき理由がない旨を通知する処分(本件各通知処分)をした。
管財人(原告)が、主位的に本件各通知処分の取消しを、予備的に右還付されるべき金額に相当する不当利得の返還を求める事案。
<規定>
法人税法 第22条(各事業年度の所得の金額の計算)
内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
<争点>
①本件各事業年度の法人税についての更正すべき理由の有無
②被告に対する不当利得返還請求の成否
<判断>
●本件各事業年度の法人税についての更正をすべき理由の有無
法人税法は、法人が存続し成長することを目指して経営されるものであることに照らし、人為的に期間(事業年度)を区切って会計の計算をする必要があることを前提とした上、事業年度に帰属する収益と当該事業年度に帰属する費用若しくは損失については、当該事業年度に係る確定した決算に基づき、その発生の原因の実際の有効性のいかんと問わず、これを認識するものとし、確定した決算に基づいて記載された確定申告書の提出により当該事業年度の法人税の額が確定されるとしているものと解するのが相当。
事業年度の収益又は費用若しくは損失についての企業会計原則において定められている前記損益修正の処理(過去の利益計算に修正の必要が生じた場合に、過去の財務諸表を修正することなく、要修正額を当期の特別損益項目に計上する方法)は、同法22条4項に定める「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当すると解するのが相当。
本件更生手続きにおいて、平成23年5月13日の経過により過払金返還請求権に係る債権が更生債権として確定したことに伴い、本件各事業年度において益金の額に算入されていた利息制限法上の制限利率を超える利息又は遅延損害金につきその支払が利息等の債務の弁済として私法上は無効なものであったというべきことを前提とする取扱いをすることが確定したとしても、それについては、本件各事業年度の後である平成22年4月1日から本件更生手続の開始の日である同年10月31日までの事業年度確定した決算に係る損益計算書に「特別損失」中の「過年度超過利息等損失」として2兆2469億5120万2618円が計上されていること等を踏まえ、当該確定の事由が生じた日の属する事業年度において処理されることとなり、本件各事業年度の法人税の確定申告に係る課税標準等又は税額等の「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」になるとはいえない。
⇒
「当該計算に誤りがあったこと」に該当する事情があるともいえない。
●不当利得返還請求の成否
「法律上の原因」のないこと(民法703条)に該当する事由が存在するとは認めがたい⇒否定。
<解説>
法人税法22条4項の趣旨については、判例(最高裁H5.11.25)に述べられているところ、本判決は、判例(最高裁昭和46.11.9)上、私法上無効であるいわゆる制限超過利息に係る部分をも踏まえて現実に授受された約定の利息・損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となり得るものとされていることを踏まえ、いわゆる前期損益修正について同項にいう「一般に公正妥当と認められる改易処理の基準」に該当すると判断したもの。
判例(最高裁昭和49.3.8)は、課税の前提が失われ、税法上の救済措置が存在せず、貸倒れの発生とその数額が客観的に明らかで、課税庁に所得及び税額の是正に係る認定判断権を留保する合理的必要性がない場合には、課税庁による是正措置がなくとも、既に徴収された税額は法律上の原因を欠く利得であるとして不当利得返還請求が可能。
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本判決は、法律上の原因がないとはいえず、右判例とは事案を異にするものと判断。
判例時報2223
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