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2014年8月11日 (月)

地方自治法242条の3第2項の損害賠償請求訴訟(第2段目訴訟)(棄却)

東京高裁H26.2.26    

市長個人に対して損害賠償請求することを命じた住民訴訟の判決が確定したことから、地方自治法242条の3第2項に基づき提起された損害賠償請求訴訟(いわゆる第二段目訴訟)において、市長から専決をゆだねられた職員に財務会計法規上の義務違反はなく、市長にも指揮監督上の義務違反はないとして、損害賠償請求が棄却された事例 

<事案>
国立市の住民が、同市が住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)に接続していないことは住民基本台帳法(住基法)に違反するものであって、住基ネットに接続していれば不要である年金受給者現況届の郵送費及び住民異動データのバックアップジムのための住基ネットサポート委託料を支出したことは、財務会計上の違法行為に該当するなどと主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を提起⇒Y(当時の国立市長)に対して上記郵送費及び委託料相当額の損害賠償請求をすること等を命じる判決(東京地裁H23.2.4)。 

本件で問題とされている郵送費及び委託料に関する支出負担行為等(本件各支出)は、国立市の内部規則に基づき、担当部長等がYに代わって専決⇒第1段目訴訟判決は、Yは専決権者による違法な財務会計行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反したことを理由に損害賠償義務を負うと判断
X(国立市)が、Yに対し、地方自治法242条の3第2項に基づき、第1段目訴訟判決によって認定された損害賠償義務の履行を求めるいわゆる第二段目訴訟。

<制度>
地方自治法242条の2第1項4号に規定する住民訴訟については、平成14年の地方自治法改正により大幅な変更。
違法な財務会計行為を行ったとされる職員等に対して損賠償等の請求をすることを求める第1段目訴訟と、②同訴訟において損害賠償等の請求を命じる判決が確定した場合の当該職員等に対する第2段目訴訟に再構成。 
第1段目訴訟においては、当該職員等に対して訴訟告知をしなければならない(地方自治法242条の2第7項)⇒第1段目訴訟の結果について、地方公共団体と当該職員等の間で参加的効力(民訴法53条4項、46条、地方自治法242条の3第4項)が生じ、通常は、第2段目訴訟において、損害賠償責任の有無を争うことはできなくなる
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本件では、Yは、第1段目訴訟に補助参加をしていたが、控訴審係属中に行われた市長選挙において落選し、新たな国立市長がYの意思に反して控訴を取り下げ⇒参加的効力が生じず、第1段目訴訟と同じ争点について、再度判断。
 
<規定>
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求

地方自治法 第242条の3(訴訟の提起)
前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。
2 前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。
4 前条第一項第四号本文の規定による訴訟の裁判が同条第七項の訴訟告知を受けた者に対してもその効力を有するときは、当該訴訟の裁判は、当該普通地方公共団体と当該訴訟告知を受けた者との間においてもその効力を有する。

<争点>
①Yが住基ネットに接続しない状態(本件不接続)を継続したことが住基法に違反する違法なものか否か
②専決権者の支出負担行為等(本件各支出)について、専決を行わせたYが損害賠償責任を負うか

<判断>
争点①について、違法。 

争点②について:
地方自治法242条の3第2項に基づく訴訟において、XがYに対して損害賠償の請求をすることができるためには
①専決権者がした本件各支出が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであり、かつ
②Yにおいて、各専決権者が財務会計上の違法行為である本件各支出をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により各専決権者が本件各支出をすることを阻止しなかったことを要する

郵送費の支出については、
①郵送費の支出は、本件不接続によって生じる住民の負担を軽減、是正するための費用であり、当該支出により得られる利益に比して、その支出による損失が著しく多額で均衡を欠くとはいえない
②郵送費の支出は、本件不接続の効果を実現したり助長したりするものではなく、当該支出を止めたとしても、本件不接続による違法は解消されない
③普通地方公共団体が住民の福祉を図るなどの役割を担っていることからすれば、専決権者が郵送費を支出したことが財務会計法規上の義務に違反し違法であるとまではいえない

住基ネットサポート委託契約の締結については、
違法な本件不接続の継続を解消し、住基ネットに再接続するために有益であり、委託料が委託契約により得られる利益に比して著しく均衡を欠くほど多額であったとはいえない
②委託契約によって、本件不接続が実現されたり助長されたりするとはいえず、本件委託契約を解消することによって本件不接続が解消できるとはいえない

委託契約を締結したことに全く合理性がないとはいえず、専決権者が委託契約を締結したことが直ちに違法であるとはいえない
⇒これに基づく委託料の支出命令は違法ではない。
⇒Xの請求を棄却。

<解説>
●住基ネットについては、最高裁H20.3.6が、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているとはいえない⇒住基ネットが個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由(憲法13条)を侵害するものではないと判断。 
市町村長の住基ネットへの接続義務については、東京高裁H19.11.29が、住基法上、市町村長は、都道府県知事に対して確認情報を送信する義務があり、通知するかしないかにつき裁量の余地は全くないこれを怠った市町村長の行為は違法となる。


①住基ネットに接続していないという違法とその後に行われた財務会計行為であるところの郵送費等の支出の違法の関係。
②専決権者が行った違法な財務会計行為について、専決をさせた地方公共団体の長が損害賠償責任を負うか。

①について、1日校長事件の最判(最高裁H4.12.15)とその後の最判(最高裁H25.3.21)は、財務会計行為を行った職員に対して地方自治法242条の2第1項4号に基づいて損害賠償責任を問うことができるのは、先行する原因行為に違法事由がある場合であっても、上記原因行為を前提にしてされた当該職員の財務会計行為が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる

当該職員が原因行為を是正する権限を有しない場合には、原因行為が著しく合理性を欠きそのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵がある場合でない限り、財務会計行為は違法とはならない。

②について、最高裁H3.12.20は、普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計行為を補助職員が専決により処理した場合、長は、上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自らも財務会計上の違法行為を行ったものとして、当該違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害について損害賠償責任を負う。

判例時報2222

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