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2014年8月 2日 (土)

文化財保護法に基づく重要文化財の保存のための環境保全命令をすることの義務付けを求める訴えの原告適格等(否定)

東京高裁H25.10.23   

1.国の重要文化財である建築物(旧磯野家住宅、別名銅御殿)の近隣に居住する住民は文化庁長官において当該建築物の隣地に高層マンションの建築を行った者に対して文化財保護法45条1項に基づく重要文化財の保護のための環境保全命令をすることの義務付けを求める訴えの原告適格を有さないとされた事例
2.国の重要文化財である建築物(旧磯野住宅、別名銅御殿)の近隣に居住する住民が提起した文化庁長官において当該建築物の隣地における高層マンションの建築につき文化財保護法43条1項本文に規定する重要文化財の保存に影響を及ぼす行為に対する許可手続を行う義務があることの確認を求める訴えにつき確認の利益が認められないとされた事例 

<事案>
Xらは、旧磯野家住宅(銅御殿)の名称で重要文化財の指定を受けている本件建物の所在する場所の近隣に居住する者。

A不動産会社は、本件建物の隣接地上に地上12階建てのマンションを新築。

Xらが、「本件建物及びこれを中心とする緑に覆われた湯立坂の良好な景観を享受する利益」、すなわち「文化財の価値を享受する利益と良好な景観の恵沢を享受する利益とが一体不可分に結合した法的利益」を有しており、本件マンションの新築に伴い、ビル風、地盤・地下水位の変動、工事による振動等を原因として本件建物が損傷し、本件建物を中心とする「湯立板」の良好な景観が破壊される。

Y(国)に対し、
①文化庁長官が、A不動産会社に対し、文化財保護法45条1項に基づき、重要文化財の保存のため本件建物に現状を超えるピーク風力係数をもたらす構造物を建設してはならないとの環境保全命令をせよとの義務付けを求め(義務付けの訴え)、また
②文化庁長官が、本件マンションの建設について、同法43条1項に定める重要文化財の保存意影響を及ぼす行為に対する許可手続き行う義務があることの確認を求めた(確認の訴え)

<規定>
行政事件訴訟法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

<原審>
Xらの訴えをいずれも却下。 

<判断>   
本件義務付けの訴え原告適格を欠き本件確認の訴え確認の利益を欠き不適法 ⇒いずれも却下すべき。

●義務付けの訴えについて
行政庁が第三者を相手方とする一定の処分をすべき旨を命ずることを求める者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨・目的、当該処分において考慮されるべき利益の内容・性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨・目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨・目的をも参酌し、当該利益の内容・性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされなかった場合に害されることとなる利益の内容・性質これが害される態様・程度をも勘案すべきものである(小田急高架化最高裁判決 最大H17.12.7)。

本件義務付けの訴えについては、
①根拠法令である文化財保護法及びこれと目的を共通にする関係法令の趣旨・目的を斟酌することにより、当該処分(環境保全命令)の根拠法令が、Xらの主張する被害の防止や利益の確保・保全その趣旨・目的としているか否かを検討し、
②それが個々人の個別的利益としても保護される趣旨のものか否かを検討すべき。
根拠法令である文化財保護法及びこれと目的を共通にする関係法令である景観法東京都景観条例文京区景観条例及び歴史まちづくり法の趣旨及び目的を斟酌することによっても、文化財保護法45条1項がXらの主張する本件利益の確保・保全をその趣旨・目的としていると解することは困難
ましてや同条項が本件利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨をも含むと解することはできない

国立マンション最高裁判決(最高裁H18.3.30)は、不法行為の成否が争点であった事案において、景観利益が一定の場合に民法709条に規定される「法律上保護された利益」に当たり得ると判示したものであり、それ以外の場面における景観利益の法的性質と効力について言及してはおらず、また景観利益を相対化し、財産権などの他の価値との優劣関係の決め方に言及しているもの。

同最判を根拠として、景観利益一般が客観的価値を有するもので私法上の利益として確立しているとみることは困難

小田急高架化最高裁判決は、処分の根拠法令の文言が多少抽象的一般的なものであっても、法令の定める規制が災害等の危険性から周辺住民の生命、身体の安全等を保護することにつながるものである場合には、生命、身体の安全などの法益の性質やその重大性にかんがみ、公益には容易に吸収解消し得ないものとして、個々人の個別的利益としても保護する趣旨が含まれるとしたものであり、かつ、
当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容・性質、これが害される態様・程度をも勘案し、当該利益が周辺住民の健康や生活環境に著しい被害を直接的に受けないと言う利益といえるか否かという観点からも検討すべき旨を判示。

サテライト大阪最高裁判決(最高裁H21.10.15)は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化の被害を被らないとういような生活環境の悪化の被害を被らないというような生活環境に関する利益は、基本的に公益に属する利益というべきであって、法令に手掛かりとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の利益としても保護する趣旨を含むと解することは困難と言わざるを得ない旨判示し、当該利益の内容・性質を考慮するに当たり、「直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりする」ことが想定される利益であるか否かという、当該処分がされた場合に害されることとなる利益の内容・性質及びこれが害される態様・程度を重視したものである。

このような判断は小田急高架化最高裁判決の判断手法と同様であって、当該利益が、Xらのいう「生活環境」利益であるか否かという観点から原告適格の有無を認定判断したものとは解されない。

上記の各最判を踏まえると、周辺住民の生命、身体の安全・健康・生活環境等に著しい被害が生じるおぞれがあるとまではいえない生活環境に関する利益については、処分の根拠法令に当該利益を個別の国民の具体的利益として保護すべき旨の規定がある場合は別として、一般的公益に吸収解消されていると解するのが相当。

Xらの主張する景観利益は、本件建物の周辺に居住する住民が、通勤、通学、散歩等の際に視野に入る本件建物及びその周辺の景観の恵沢を享受するとい広い意味での生活環境に係る利益にほかならない。

本件マンションの建築によってXらの主張する景観利益が害されるとしても、それは上記のような生活環境に係る不利益にすぎず、周辺住民等の生命、身体の安全・健康・財産に著しい被害を直接的に生じさせるおそれを招くものではない。

Xらが主張する景観利益の内容・性質、該される態様・程度を前提に考えると、環境保全命令によって法的に保証されるものとは解されず、Xらの主張する景観利益は、原告適格を基礎付ける「法律上の利益」には当たらない

●確認の訴えについて 
文化財保護法43条1項の文理・趣旨からすれば、「保存に影響を及ぼす行為」とは、重要文化財の保存状態に何らかの影響を及ぼし得る新たな事実行為を意味し、当該行為が既に完了した時点において、その行為の結果生じた状態が継続することは含まないと解するのが相当。

本件マンションが完成し、当該行為が完了している以上、本件確認の訴えには確認の利益は認められない
Xらには、その権利又は法律上の地位に現に危険・不安が存するとはいえず、この点からも確認の利益は認められない。

判例時報2221

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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