公判手続停止から約17年間訴訟能力が回復しなかった被告人に対し、後発的に公訴提起が無効になったものとして、公訴棄却判決が言い渡された事例
名古屋地裁岡崎支H26.3.20
公判手続停止から約17年間訴訟能力が回復しなかった被告人に対し、公訴提起後に重要な訴訟条件を欠き、後発的に公訴提起が無効になったものとして、公訴棄却判決が言い渡された事例
<事案>
殺人の訴因で起訴された被告人について、公訴提起の約1年半後に刑訴法314条1項により公判手続を停止する旨の決定がなされ、その後約17年間にわたって被告人の訴訟能力が回復しなかったこと等から、被告人には訴訟能力がなく、その回復の見込みが認められないとして、公訴棄却判決が言い渡された事案。
<規定>
刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
<判断>
本件においては、被告人に訴訟能力がなく、その回復の見込みも認められないことは公訴提起後に明らかになった事情であるが、公判手続の停止を継続し、刑事被告人の地位を半永久的に強制することは、被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)を侵害し、適正手続の保証(憲法31条)にも反するおそれがある上、事案の真相を明らかにし、刑事法令を適正かつ迅速に適用実現するという刑事訴訟法の目的(1条)にも反することになる
⇒
公訴提起後に重要な訴訟要件を欠き、後発的に「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効」になったものとして、刑訴法338条4号を準用した上、被告人に対し公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合(同法314条1項ただし書)として、公訴棄却判決を言い渡すのが相当。
<解説>
刑訴法314条1項が、心神喪失の状態が続く被告人に対し、決定で公訴手続を停止しなければならない旨規定。
ここでの心神喪失は、訴訟法上の概念であり、刑法上の責任阻却事由としての心神喪失(刑法39条1項)の概念とは必ずしも一致せず、被告人の防御権を尊重して手続の公正を担保しようとする同条の趣旨に照らして、被告人として重要な利害を弁別し、それに従って相当な防御をすることができる能力を欠く状態を指す(最高裁H7.2.28)。
本判決は、刑訴法338条4号を準用する旨判示するが、同条号は、公訴提起の瑕疵が重大であり、補正・追完のできない場合についての包括的規定。
判例時報2222
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