選挙管理委員会の委員について月額報酬を定める条例規定が無効とされた事例
東京地裁H25.10.16
選挙管理委員会の委員について月額報酬を定める東京都杉並区の条例の規定は、委員がその職にあった特定の月の全て又はその大部分の日において疾病等のために職務を遂行することができなかった場合を含めて一律に月額報酬の全部を支給するものとする限りにおいて無効であるとして、不当利得の返還等の住民訴訟の請求が一部認容された事例
<事案>
杉並区の住民であるXらは、杉並区選挙管理委員会の委員であったAが平成22年5月1日から同年10月25日までの期間を含む各月において杉並区行政委員会の委員の報酬及び費用弁済に関する条例の規定に基づき月額をもって定められた報酬の支給を受けたことについて、杉並区の執行機関であるYに対し、
①地方自治法242条の2第1項4号に基づき、Aに上記各月に報酬として支給された額に相当する額の不当利得返還の請求をすることを求めるとともに、
②同項3号に基づき、Yが上記の請求をすることを怠る事実の違法確認を求めた。
<規定>
地方自治法 第203条の2〔報酬、費用弁償等〕
普通地方公共団体は、その委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し、報酬を支給しなければならない。
②前項の職員に対する報酬は、その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし、条例で特別の定めをした場合は、この限りでない。
<判断>
●
いわゆる滋賀行政委員会委員報酬事件の最高裁H23.12.15(「本件最高裁判決」)の基準を参照し、杉並区選挙管理委員の職務の性質及び職責の重要性を考慮した上で、杉並区選挙管理委員の職務の性質及び職責の重要性等を考慮した上で、杉並区選挙管理委員の業務については、形式的な登庁日数のみをもって、その勤務の実質が評価し尽くされるものとはいえない。
杉並区選挙管理委員の報酬の支給の在り方として月額報酬制を採用したこと自体をもって、直ちに本件条例の規定が地方自治法203条の2第2項の規定に違反するとはいえない。
本件期間におけるAの勤務状況を詳細に認定した上で、Aの定例会等の出席状況、継続的な意識障害の存在、辞職の経緯等を総合的に考慮すると、少なくともAの入院期間中、Aは、杉並区選挙管理委員としての業務を一切行っていなかったことが認められ、本件条例の規定は、そのような場合を含め、その勤務の態様等を格別考慮することなく、一律に月額報酬の全額を支給するものとする限りにおいて、地方自治法203条の2第2項の規定の趣旨に照らした合理性の観点から議会の裁量権の範囲を超えるものとして、同規定に違反し、無効である。
⇒Aに対してされた本件期間の月額報酬の支給については、法律又はこれに基づく条例に基づかずにされたものであって無効。
⇒Xらの請求を一部認容。
●
Xらが訴訟係属中に訴えの追加的変更をした部分について、対象とする職員の行為等につき住民監査請求を経ていない⇒不適法として却下。
●
Xらの請求のうち、Aが杉並区に報酬を既に返還した額に相当する金員(1円)の不当利得返還の請求及び同請求をすることを怠る事実の違法確認請求については、Aが不当利得の返還請求を負うと認めるに足りる証拠はない⇒棄却
<解説>
多くの地方公共団体は、一部の行政委員会の委員について、条例で月額報酬制を採用していたところ、上記滋賀行政委員会委員報酬事件の第一審判決(大津地裁H21.1.22)が、住民側の請求を全部認容し、月額報酬制を定める条例の規定が地方自治法203条の2第2項に反し違法、無効であると判示。
本件最高裁判決は、行政委員会の委員を含む非常勤の職員の報酬制度の条例の定めについては、県議会の裁量に委ねられており、当該非常勤の職員の①職務の性質、内容、職責、②勤務の態様、負担等の諸般の事情を考慮して、裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるかを判断すべきであるとの基準を示した上で、滋賀県の選挙管理委員会の委員長以外の委員について月額報酬を定める条例の規定は、裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法、無効であるとはいえない。
⇒行政委員会の委員の月額報酬の適否について、これを適法とする判断。
本判決は、本件最高裁判決の基準に照らしても月額報酬制を採用した条例の規定が違法、無効となる場合があることを示したもの。
判例時報2218
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