外国税額控除の手続要件の充足が否定された事例
東京地裁H25.11.19
1 繰越控除限度額に係る最も古い年以後に確定申告書に控除限度額及び外国所得税の額を記載しなかった年がある場合につき、所得税法(平成21年法律第13号による改正前のもの)95条6項に規定する同条2項に基づく外国税額控除の手続要件を充足しないとされた事例
2 所得税法(平成21年法律第13号による改正前のもの)95条7項に規定する「やむを得ない事情」があるとは認められないとされた事例
<事案>
平成21年分の所得税について、所得税法95条2項に基づき、平成19年分の控除限度額を繰越使用することにより外国税額控除をして確定申告⇒税務署長から、Xの平成20年分の所得税の確定申告書には同条6項所定の事項の記載等がなかったから、同項に規定する手続要件を満たしていない⇒平成21年分の所得税について同条2項に基づく外国税額控除をすることはできない⇒同年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定。
⇒右処分の取消を求めた。
<規定の説明>
所得税法:
①居住者が各年において納付することとなる外国所得税につき、その年分の所得税の額から控除することを認めるとともに(同法95条1項、同法施行令(平成21年政令第104条号による改正前のもの。以下同じ。)222条)
②国外所得の発生時期と外国所得税の納付時期とのずれを一定の範囲で調整するため、各年の外国所得税の額が控除限度額に満たない場合の控除余裕額又は各年の外国所得税の額が控除限度額を超える場合の控除限度超過額につき、翌年以降の繰越使用を3年以内に限り認める(同法95条2項、3項、施行令224条、225条)。
①の控除を認める所得税法95条1項の規定につき、同条5項は、確定申告書に所定の事項の記載等がある場合に限り適用する旨を規定し、
②の繰越使用を認める同条2項及び3項の規定につき、同条6項は、繰越控除限度額又は繰越外国所得税額に係る年のうち最も古い年以後の「各年」について、当該各年の控除限度額及び当該各年において納付することとなった外国所得税の額を記載した確定申告書を提出すること等の手続要件を満たした場合に限り、適用する。
同条7項は、右記載等がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載等がなかったことについて「やむを得ない事情」があると認めるときは、同条1項から3項までの規定を適用することができる旨を規定。
<争点>
①所得税法95条6項の「各年」の意味
②同条7項に規定する「やむを得ない事情」の有無。
<解説>
日本の所得税法及び法人税法は、国際的二重課税の排除の方法として外国税額控除制度を採用。
法人税法69条の定める外国税額控除制度については、日本の企業の海外における経済活動の振興を図るという政策的要請の下、国際的二重課税を防止し、海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することを目的として設けられた(最高裁H17.12.19)。
所得税法95条の定める外国税額控除制度の趣旨も同様に解するのが一般的。
<判断>
●
争点①について
①所得税法所定の外国税額控除に係る手続要件は、税額の計算の安定を確保し、もって租税法律関係の明確化を図る趣旨。
②所得税法95条2項に基づく控除額は「繰越し控除限度額に係る年の最も古い年」以後の各年の控除限度額及び外国所得税の額を基礎として計算される
⇒
所得税法95条6項の「各年」は、同条1項が適用されたかどうかに関わらず、その各年全てを意味する(すなわち、その各年全てについて確定申告書への控除限度額及び外国所得税の額の記載を要求するもの)と解すべき。
⇒「各年」とは同項が適用された年に限られる旨のXの主張を排斥。
●
所得税法95条7項所定の「やむを得ない事情」の意義について、
裁判上、納税者の責めに帰することのできない客観的な事情をいい、納税者の法の不知等の主観的な事情はこれに当たらないと解するのが一般。
⇒本件では「やむを得ない事情」があるとは認められない。
<解説>
平成23年法律代114号による改正により、いわゆる当初申告要件が廃止され、所得税法95条6項所定の手続要件についても、確定申告書のほか修正申告書又は更正請求書による充足が可能となった。
判例時報2219
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