一般廃棄物収集運搬業又は一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分の取消訴訟と既存同業者の原告適格(肯定)
最高裁H26.1.28
一般廃棄物収集運搬業又は一般廃棄物処理業の許可処分又は許可更新処分の取消訴訟と当該処分の対象とされた区域につき既にその許可又は許可の更新を受けている者の原告適格
<事案>
福井県の小浜市長から一般廃棄物収集運搬業の許可を受けていた上告人(原告)が、被上告人(小浜市)を相手方として、
(1)小浜市長がして、
①有限会社Aに対する一般廃棄物収集運搬業許可更新処分、
②被上告補助参加人に対する一般廃棄物収集運搬業・処分業許可更新処分
には、重大かつ明白な瑕疵があるなどと主張して、本件各更新処分の取消しを求めるとともに、
(2) 小浜市長が有限会社Aや被上告補助参加人に対して一般廃棄物収集運搬業等の許可処分をしてその後本件各更新処分をしたことが違法であるとして、国賠法1条1項に基づき損害賠償を求める事案。
<規定>
行政事件訴訟法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
<1審、原審>
(1)の取消請求については、要旨、廃棄物処理法は、一般廃棄物収集運搬業・処分業の許可又はその更新を受けた者(「許可業者」)の営業上の利益を個別的利益として保護するものではない。
⇒原告適格を否定して、その訴えを却下。
(2)の損害賠償請求については請求を棄却。
<判断>
(1)の取消請求については、一般廃棄物収集運搬業・処分業の許可処分又はその更新処分について、許可業者の原告適格を肯定。
(2)の損害賠償請求について、原判決を破棄し、同部分について原審に差し戻す判断。
取消請求については、被上告補助参加人の一般廃棄物処分業の許可処分に係る部分について、
原告が元々その収集運搬業の許可しか有しておらず、有限会社A及び被上告補助参加人の一般廃棄物収集運搬業の許可処分に係る部分は上告人が既に廃業していることが判明
⇒訴えを不適法とした原審の判断は結論として是認し得るとして、その部分についての上告を棄却する旨の判断。
<解説>
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学説等
既存同業者の原告適格の有無は、当該許認可の根拠法規が既存同業者の営業上の利益を保護する趣旨を含むものであるかどうかによって決せられるべき
適正配置基準や需給調整等の主たる目的が公益の実現にあるとしても、公益を実現するために競争関係にある既存同業者の健全な経営を個別に保護する必要もあり、その営業上の利益も保護法益としていると解される場合もあり得る
①許認可の根拠法規が、競争関係にある既存同業者の個別的利益を保護しているというためには、当該根拠法規に業者間の適正配置基準や需給調整を定める規定等、既存同業者の利益保護につながるような規定が存在することを要する。
②当該事業あるいは職業が国民生活上不可欠な役務の提供を内容とするものであって、提供すべき役務の内容、対価等に関する強力な規制がされている場合には、適正配置基準等の規定には既存同業者を保護する趣旨・目的が含まれていると解する1つの根拠となる
③道路運送法89条、同法施行規則56条3号のように既存同業者に聴聞を受ける権利等を保障する規定がある場合などの手続的な保障がされている場合には、これも1つの手掛かりとなる
既存同業者の原告適格については、法律上の距離制限規定あるいは地域独占制度が存在しないとき(実定法上参入規制の仕組みが採られていないとき)には既存業者に原告適格は認められ難い(塩野)。
●
最高裁H19.10.10:病院の開設許可について
医療法7条に基づく病院の開設許可について、同法の規定は、病院開設の許否に当たり、付近で医療施設を開設している者(他施設開設者)の利益を考慮することを予定していないことが明らか。
都道府県が「基準病床数に関する事項」を含む医療計画を定めること(同法30条の3)についても、病院開設の許可の申請が医療計画に定められた「基準病床数に関する事項」に適合しない場合にも、そのことを理由に不許可処分をすることはできないし、その目的は良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保することにある。
⇒
他施設開設者の原告適格は認められない。
●
本判決:
一般廃棄物の収集運搬業・処分業の需給状況の調整に関する規制の仕組み及び内容、その規制に係る廃棄物処理法の趣旨及び目的、一般廃棄物処理の事業の性質、その事業に係る許可の性質及び内容等を総合判断し、廃棄物処理法は、当該区域における需給の均衡が損なわれ、その事業の適正な運営が害されることにより、当該区域の住民の健康や生活環境に被害や影響が及ぶ危険が生じる事態を防止するため、市町村長の許可において、その事業に係る営業上の利益を個々の許可業者の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解する。
⇒
許可業者について、他の者に対してされた一般廃棄物収集運搬業・処分業の許可処分又はその更新処分の取消訴訟についての原告適格を有する。
~
いわゆる競業者が提起した事業の許可処分の取消訴訟について、根拠法令の規定の文言のみによることなく、法令の趣旨・目的、その仕組み等を実質的、柔軟に解釈し、一般廃棄物の収集運搬業・処分業については、適正配置規制等の需給調整規定が明示的に定められているわけではないものの、廃棄物処理法の規定の内容を実質帝、柔軟に解釈して需給調整の仕組みが設けられている等と解した上で、その原告適格を肯定。
病院の開設許可の場合とは、それぞれの許可処分の根拠法令における要件や仕組みに係る規定の内容・構造及びそれぞれの事業の内容や性質等が異なるものであることなどの事案の相違が考慮。
判例時報2215
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