「足立区反社会的団体の規制に関する条例」に基づく報告がないとして宗教団体に対してした5万円の過料処分が取り消された事例
東京高裁H25.10.31
足立区長が「足立区反社会的団体の規制に関する条例」に基づく報告がないとして宗教団体に対してした5万円の過料処分につき、制裁をもって報告を強制する以上、区や区長は、その施設の所在地を同区のホームページで公表されることによる犯罪行為の誘発等に対する当該団体の懸念を解消、緩和するよう合理的で納得性の高い説明を尽くす必要があるのに、十分な説明もないままなされた違法なものであるとして、取り消された事例
<事案>
旧オウム真理教を承継する宗教団体として無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(「団体規制法」)により観察処分を受けているXが、処分行政庁(足立区長)から、足立区反社会的団体の規制に関する条例(「本件条例」)10条1号に基づき、同5条2項の報告を正当な理由なく拒んだものとして金5万円の過料に処された。
⇒
本件条例は、信教の自由(憲法20条1項)などの基本的人権を侵害するものであるから違憲無効であり、また、Xは「正当な理由なく」(本件条例10条1号)本件報告を拒んだものではないなどと主張し、Y(足立区)に対し、本件過料処分の取消しを求めた。
<原審>
本件報告義務により反社会的団体から報告される情報は、被告が自ら認めているとおり、足立区情報公開条例2条2項の「区政情報」に該当することになると解される⇒公表の際には、同条例8条1号の規定の趣旨が類推適用され、個人生活に関する情報で特定の個人が識別され得るものについては開示は許されないことになる。
本件条例6条に基づく公表では、反社会的団体の施設の所在番地等の公表は予定されていないものと認められる⇒原告の主張はその前提を欠く。
⇒請求棄却。
<判断>
●
足立区長は平成22年12月28日にXに対して、本件条例に基づき、平成23年1月31日までに本件条例に基づく事項を報告するよう求めたが、その後、Xから4回にわたって反論や説明が求められていたにもかかわらず、十分な説明をすることなく、期限から約1か月強が経過した同年3月8日には本件過料処分をした
⇒その時点では、Xが足立区長に対して本件報告をしなかったことには、まだ正当な理由が認められ、本件過料処分は違法なものであるとして、これを取り消した。
●
①本件条例により報告を求め、これを公表することは、「区民の安全及び地域の平穏の確保」を図ることを目的として、その手段として定められたもの⇒これに優越する権利や法益が侵害される蓋然性が認められる場合には、Xの報告を拒む正当な理由がある。
②区のホームページで公表され、情報が拡散すると事後的に削除することは事実上困難であり、その人格的利益を侵害するおそれを内在⇒区長としては、過料の制裁をもって報告を強制しようとする以上、Xのそのような懸念を解消、緩和するよう合理的で納得性の高い説明を尽くす必要があった。
③Xは・・・人格的利益侵害の懸念を主張し、区のホームページでどこまで公表されるのかなどについて説明を求めたにもかかわらず、区長は、「報告内容の公表については、区の基準で判断する。」との一文しか回答せず、具体的には何も説明しなかった。
④XとYとの間では、以前にもXの信者がYに対して転入届をしたにもかかわらず、区長がその受理を拒絶して裁判で争われた経緯⇒Xが区長の上記説明に納得しなかったのは致し方ないところがある。
⑤区長は公表に際して地番等不公表措置を採るつもりであったと主張しているが、そのことを明示的に主張したのは一審の最終口頭弁論期日であり、それ以前にはまったくそのような主張もなかった。
⑥Yの危機管理室長が宅建業取引協会に対して協力依頼した際には地番等不公表措置を採っていなかった。
⇒
Xにおいて、本件報告をすると施設の地番等も公表されてしまい、Xの活動やその構成員の生命、身体等に危険が及ぶと考えて本件報告を拒んだことには正当な理由があり、平成23年3月8日の時点では5万円の過料を科したことは、その処分要件を欠く違法なものであり、取り消されるべき。
判例時報2217
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