土地収用法に基づく収用裁決の取消しを求める訴訟で違法性の承継が否定された事例
東京高裁H24.1.24
土地収用法に基づく収用裁決の取消しを求める訴訟において、同裁決の違法事由として、同裁決に先立つ事業認定の違法性を主張することは許されないとされた事例
<事案>
静岡空港整備事業の起業地ないに権利を有する控訴人らが、処分行政庁たる県収用委員会が控訴人らに対してして土地収用法48条に基づく権利取得裁決及び同法49条に基づく明渡裁決(本件収用裁決)の取消しを求めた事案。
<争点>
土地収用法に基づく事業認定の瑕疵を収用裁決の違法事由として主張することができるかという「違法性の承継」の問題。
<原判決>
違法性の承継を認めることは、法律関係の早期安定を図ろうとした行政事件訴訟法の趣旨を没却する。
⇒法律の特段の定めがない限り原則として許されない。
事業認定の適法性は、重大明白な瑕疵がある場合を除き収用裁決の取消訴訟における審理の対象とされておらず、事業認定が適法であることが、収用裁決の要件とされているものではない。
違法性の承継を認めなくても、権利者は、土地収用法所定の事業認定手続において、事業の内容について情報を得る手段や機会を十分に与えられており、事業認定の取消訴訟を提起し、その適否を争うことが十分に可能。
⇒権利救済に欠けるところはない。
⇒違法性の承継を否定。
<判断>
本件事業に係る事業認定手続及び同事業認定処分に対する別件取消訴訟の経過等を具体的に認定した上、同事業認定については、控訴人らにおいて、その取消訴訟を提起する機会が保障されている。
控訴人らが実際に提起した同事業認定の取消訴訟において同事業認定の違法性について既に審理され、静岡地裁において請求棄却の判決がされ、その控訴審である東京高裁において控訴棄却の判決がされている。
⇒事業認定とは独立した行政処分である収用裁決の取消しを求める本件訴訟において、本件収用裁決の違法事由として、同事業認定の違法性を主張することは許されない。
<解説>
●
違法性の承継:先行する行政処分(先行処分)の存在を前提とする後行の行政処分(後行処分)がある場合に、先行処分が取り消されなくても、後行処分の取消訴訟において先行処分の瑕疵を後行処分の瑕疵を違法事由として主張することができるか?
これを許して後行処分を取り消したところで、先行処分までも取り消されることになるわけではない。
but
先行処分に瑕疵があることを理由に後行処分が取り消されれば、行政庁は先行処分の見直しを余儀なくされることが多い。
⇒
多数説:これを許すと先行処分の取消訴訟に出訴期間を設けた趣旨が没却される
⇒これが認められるのは例外的な場合に限られる。
最高裁H21.12.17:
東京都建築安全条例4条3項に基づく安全認定と建築基準法上の建築確認との間に、その例外的とされる場合を認めた。
←
①安全認定と建築確認が同一の目的を達成するために行われるものであり、安全確認は建築確認と結合して初めてその効果を発揮する。
②安全認定の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難であり、また、建築確認があった段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない。
●
本件で問題となった土地収用法の事業認定と収用裁決とは、違法性の承継が認められる代表的な事例とされてきた。
名古屋地裁H2.10.31:
①両者が、直接の効果は異なるものの、結局は互いに相結合して当該事業に必要な土地を取得するという法的効果の実現を目的とする一連の行政行為である
②被収容者の立場からみれば、事業認定の段階では収容される区域も補償内容も明確ではない⇒争訟提起の必要性をさほど切実に感じなかったとしても無理からぬ点がある。
⇒
違法性の承継を肯定。
●
本件の控訴人らの一部を含む者らは、本件事業の事実認定に対する取消訴訟をも提起していたところ、最高裁は、同別件事件について、平成25年10月1日、上告棄却及び上告不受理の決定⇒一審原告らの請求を棄却した一審判決が確定した。
⇒
本件の上告審において違法性の承継を認める旨の判断が示されたとしても、本件の控訴人らのうち、前記別件事件の一審原告となった者らは、同事件の既判力により、事業認定が違法であることを主張することができない(最高裁H9.10.28)。
このような状況において、最高裁は、平成25年10月15日、本判決に対する控訴人らによる上告及び上告受理の申立てに対し、上告棄却及び上告不受理の決定。
判例時報2214
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