密輸組織が関与する覚せい剤の密輸事件での経験則(逆転有罪の事案)
最高裁H25.10.21
密輸組織が関与する覚せい剤の密輸事件について、被告人の故意を認めず無罪とした第1審判決に事実誤認があるといた原判決に、刑訴法382条の解釈適用の誤りはないとされた事例
<事案>
覚せい剤密輸事件につき、裁判員が参加した第一審判決で無罪⇒控訴審判決が刑訴法382条に定める事実誤認を理由に破棄、有罪の自判⇒最高裁は、控訴審判決には同条の解釈適用の誤りはないなどとして決定で上告を棄却。
<規定>
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
<判断>
本件のような密輸組織が関与する覚せい剤の密輸入事件では、密輸組織において目的地到達後に運搬者から覚せい剤を確実に回収することができるような特別な事情や、確実に回収することができる措置を別途講じているといった事情がない限り、運搬者は、密輸組織の関係者等から、荷物の中身が覚せい剤であることまで打ち明けられるかどうかはともかく、回収方法について必要な指示等を受けた上、当該荷物の運搬の委託を受けていたものと認定するのが相当。
この経験則を利用すれば、そのような例外的な事情(特段の事情)が見当たらない本件では、原判決のとおり、被告人は密輸組織の関係者等からスーツケースを日本に運ぶよう指示又は依頼を受けて来日したと認定でき、更に推認を重ねれば被告人の知情性も認定できる。
⇒
知情性を否定した第一審判決の結論は誤っているといわざるを得ず、原判決は、第一審判決の事実認定が経験則等に照らして不合理であることを具体的に示して事実誤認があると判断したものといえる。
⇒被告人の上告棄却。
<解説>
刑訴法382条の事実誤認の意義:
最高裁H24.2.1:
「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいう」
「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」
本判決が判示するような推認を働かせることに対しては、被告人の預り知らない可能性がある密輸組織の行動等につき、被告人側に主張・立証責任を負わせることとなり不当であるという批判。
but
推認を覆す事情が示されない限り、ある事実から合理的に推認できる別の事実を認定するという事実認定として当然の手法を採用したもので、批判は当たらない。
判例時報2210
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