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2014年4月15日 (火)

村議会の村長に対する損害賠償請求権の放棄の有効性(有効)

東京高裁H25.8.8   

先行の住民訴訟において村の嘱託員に支払われた諸手当が地方自治法に違反するとして村長個人に756万円余の損害賠償を請求するよう命じられたところ、村議会が村の村長個人に対する右損害賠償請求権の放棄を議決するなどしたため、村民らが新たに村議会の右議決の違法確認等を求めた住民訴訟において、これを違法とした第1審判決を取り消して、請求が棄却された事例。
(檜原村債権放棄議決事件控訴審判決) 

<事案>
東京高裁H20.12.24:
地方自治法上、嘱託員に「諸手当」を支払うことは認められていない
⇒賃金等のうち諸手当として支給された2年分の合計756万3800円につき、村長は村長個人に対して損害賠償を請求すべきことが命じられた。

村長は最高裁に上告受理の申立てをする一方
村議会は、村長個人に対する右損害賠償請求権を放棄する旨の議決をし、村長が債権放棄の意思表示をした。

村民ら12名が右議決は違法であるとし、檜原村代表監査委員を被告として
①村を代表して村長個人に損害賠償債権の支払を求める訴訟を提起することと
②その訴訟の提起を怠っていることが違法であることの確認
を求めた。

<原審>
①の訴えを却下
②については、議決を違法とし、債権放棄は無効と判断。

<判断>
(1)・・・地方自治法では嘱託員に「諸手当」という名目では金銭を支給できないとされているため違法とされたもので、村長に最終的な責任はある。
but
①嘱託員の雇用は村の財政健全化(勧奨退職による歳出削減)の一環として行われ、
②右賃金等は村の歳出削減に必要かつ有益であり、その額もその職務に照らして不当に高額ではなく、村における従前の取扱いを踏襲したものであり、
③村の関係者の多くは村長の個人的な過失ではなく、村としての組織の責任と受け止めている

(2)債権放棄は・・・・裁判所の司法判断を軽視したものではなく、司法判断とは別に、村の実情を最もよく知る村議会の政治的判断として、異論も十分に踏まえた上、村に及ぼす利害得失を総合的に勘案した上でなされた

(3)右債権を放棄した場合には、村の職員に萎縮効果や混乱が生じ、村が積み上げてきた行財政改革にも水を差すおそれがあるなどの弊害があるのに対し、
右債権を放棄した場合でも、村の財政に及ぼす実際の影響は限定的なものである上、放棄は嘱託員や村長個人に実質的に不当な利益を得させるものではなく、弊害が少ない

(4)村では先行の控訴審判決を真摯に受け止め、これを踏まえて条例を制定するなどの是正措置等を講じており、右債権を放棄することは、村の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理で大きな影響を及ぼすようなものではない
⇒債権放棄は有効。

<解説>

地方公共団体の議会における債権放棄決議の適法性及び放棄の有効性:

最高裁H24.4.20、H24.4.23:

地方自治においては、普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって、その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合には、その公布)という手続的要件を満たしている限りその適否の実体的判断については、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられている

同法において、普通地方公共団体の執行機関又は職員による公金の支出等の財務会計行為又は怠る事実に係る違法事由の有無及びその是正の要否等につき住民の関与する裁判手続による審査等を目的として住民訴訟制度が設けられている。

住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合についてみると、このような請求権が認められる場合は様々

個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、当該議決の趣旨及び経緯、当該請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨等に照らして不合理であって上記の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となるものと解するのが相当。

当該公金の支出等の財務会計行為等の性質、内容等については、その違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等が考慮の対象とされるべきもの。


本判決も原判決も、右判断内容に従って、請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容等(違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等)、原因、景気及び影響、議決の趣旨及び経緯、請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情について順次検討しているが、相反する結論に。 

原判決:
①給与条例主義が普通地方公共団体の組織の構成における原則として最も基礎的なものであり、普通地方公共団体の長としては、非常勤職員に対する給付の支給がこれに反するものでないか否かについて配意すべき。
②合計756万円余りの手当分の公金支出が村の財政に及ぼす影響は、これを否定できない。
⇒村長の帰責性は小さくない。

本判決:
村長に最終的な責任はある。
but
嘱託員の雇用自体は村の財政健全化という正当な目的のために行われ、村における従前の取扱いを踏襲したもの。
村の関係者の多く村長の個人的な過失ではなく、村としての組織の責任として受け止めている。
⇒村長個人の帰責性は必ずしも大きくない。

判例時報2211

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