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2014年4月25日 (金)

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」42条の決定に対する同法64条2項の抗告の許否

最高裁H25.12.18   

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」42条の決定に対する同法64条2項の抗告の許否 

<規定>
心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律 .

第64条(抗告)
2 対象者、保護者又は付添人は、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする場合に限り、第四十二条第一項、第五十一条第一項若しくは第二項、第五十六条第一項若しくは第二項又は第六十一条第一項若しくは第三項の決定に対し、二週間以内に、抗告をすることができる。ただし、付添人は、選任者である保護者の明示した意思に反して、抗告をすることができない。
      
第42条(入院等の決定)
裁判所は、第三十三条第一項の申立てがあった場合は、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とし、かつ、同条第三項に規定する意見及び対象者の生活環境を考慮し、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める決定をしなければならない。
一 対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定
二 前号の場合を除き、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 入院によらない医療を受けさせる旨の決定
三 前二号の場合に当たらないとき この法律による医療を行わない旨の決定

<事案>
医療観察法に基づく入院等の申立て事件において、原々審が、殺人未遂という対象行為の存在を認め、対象者についてアルツハイマー型認知症により心神喪失の状態にあったと判断する一方、同法による医療を行う必要性が認められない
同法42条1項3号により医療を行わない旨の決定 
⇒対象者が、殺意の認定に事実誤認があるとして抗告を申し立てた。

医療観察法64条2項の規定は、対象者側からの抗告申立ての対象として同法42条1項を挙げていた
医療不実施決定に対する対象者側からの抗告申立ての許否が問題

<原決定>
抗告を棄却。
医療不実施決定は、対象者に義務や負担を課すなどの法律上の不利益を与えるものではなく、これに対し、対象者においてその取消しを求めて上訴をすることは上訴の利益を欠く⇒本件抗告の申立ては不適法。

医療観察法64条2項の規定は、上訴の利益がない場合には上訴が許されないことを前提とした上で、同法33条1項の申立てに対する決定等に対して上訴ができる旨を規定したものと解され、医療不実施決定についても対象者等に上訴の申立権を認めた趣旨と解することはできない。

<再抗告理由>
医療観察法64条2項を縮小解釈し、対象者の抗告の機会を限定した原決定は、対象者の不利益に対する適正手続、対象者の審判を受ける機会を奪うもの⇒同条項の解釈適用を誤り、ひいては憲法31条、32条に違反し、あるいはその憲法解釈を誤ったもの。
また、原決定は、刑の免除判決に対する上訴を認めた大審院判例に違反する。

<判断>
所論は医療観察法70条1項の抗告理由に当たらないとした上、「なお、同法42条1項3号の「この法律による医療を行わない旨の決定」に対しては、対象行為の認定を争うものであっても同法64条2項の抗告が許されないとした原決定は正当である。」

<解説>
非行事実の認定を明示してなされた少年法23条2項の不処分決定に対する少年からの抗告の許否について、これが許されないとした原審の判断が正当である旨判示。

被告人は下級裁判所の裁判が自己に不利益な場合でなければこれに対する上訴権を有しない旨判示し、無罪判決に対する被告人の上訴を許さない。
⇒無罪判決、免訴判決、公訴棄却決定に踏襲。

「裁判が自己に不利益な場合」の意義について、通説的見解は「客観的かつ法律的利益」の有無を基準とすべきであるとしている。 

判例時報2211

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