性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子と嫡出の推定(肯定)
最高裁H25.12.10
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子と嫡出の推定
<事案>
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(「特例法」)3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けたX1及びX2が婚姻中に懐胎して出産した子であるAの、父の欄を空欄とする等の戸籍の記載につき、戸籍法113条の規定に基づく戸籍の訂正の許可を求める事案。
X1は、AをXら夫婦の嫡出子とする出生届を新宿区長に提出。
⇒戸籍事務管掌者である新宿区長は、Aが民法772条による嫡出の推定を受けないことを前提に、出生届の父母との続柄欄等に不備があるとして追完するよう催告したが、X1が従わない。
⇒東京法務局の許可を得て、Aの「父」の欄を空欄とし、X2の長男とする旨の戸籍の記載。
⇒Xらは、Aは民法772条による嫡出推定を受けるから、本件戸籍記載は法律上許されないものであると主張し、Aの「父」の欄に「X1」と記載する旨の戸籍の訂正の許可を求めた。
<規定>
戸籍法 第113条〔違法な記載等の訂正〕
戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正を申請することができる。
民法 第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
<原決定>
戸籍の記載上、夫が特例法に基づき男性への性別取扱変更の審判を受けた者であって当該夫と子との間の血縁関係が存在しないことが明らかな場合においては、民法772条を適用する前提を欠く。
<判断>
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項の規定に基づき第制への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子は、民法772条の規定により夫の子と推定されるのであり、夫が妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に実質的に同条の推定を受けないということはできない。
⇒
Aは、妻であるX2が婚姻中に懐胎した子であるから、夫であるX1が特例法に基づき性別取扱変更の審判を受けた者であるとしても、民法772条の規定によりX1の子と推定される。
⇒
Aについて嫡出子としての戸籍の届出をすることは認められるべきであり、本件戸籍記載は法律上許されないものであって、戸籍の訂正を許可すべきであるとして、破棄自判。
<解説>
●
特例法に基づき性別取扱変更の審判がされたことは戸籍法及び戸籍法施行規則により戸籍に記載される。
特例法に基づき性別取扱変更の審判を受けた者についても婚姻することが認められる。
●
民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、その子は実質的に同条の推定を受けない(判例)。
嫡出推定が及ばない範囲:
A:妻が子を懐胎すべき時期に夫婦間に同居の欠如という外観的に明白な事実がある場合に限定して嫡出推定が及ばないとする外観説(我妻)。
B:夫が生殖不能である場合も含めて懐胎可能性が完全に存在しないあらゆる場合に広く嫡出推定が及ばないとする血縁説(中川)。
非配偶者間人工授精(AID。人工授精を夫以外の男性の精子で行うものをいう。)により妻が婚姻中に懐胎した子が夫の子と推定されるかについて
A:外観説⇒推定される
B:血縁説⇒推定されない
C:外観説に立ちながら、非配偶者間人工授精の場合については別途の考慮を働かせるべき⇒推定されない。
●
本決定:
そのような夫について妻との性的関係によって子をもうけることは想定できないものの、一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果である民法772条の規定の適用を認めないことは相当でない。
⇒
判例にいう「実質的に同条の適用を受けない」場合には当たらない。
本決定は、特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者の妻が婚姻中に懐胎した子につき民法772条の嫡出推定が及ぶとしてものであって、実質的に同条の推定を受けない場合が一切ないとするものではなく、また、推定を超えて嫡出否認権まで失われるような強い効力を認めたものでもない。
判例時報2210
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