所得税法上の「居住者」に当たるが「非永住者」に該当するとされた事例
東京地裁H25.5.30
本邦に本店のある株式会社の代表取締役が、所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。)2条1項3号の「居住者」に当たるものの、国内に永住する意思がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居住を有している個人であるともいえないとして、同項4号の「非永住者」に該当すると認定された事例
<主な争点>
本件各課税年において
①X1が、所得税法2条1項3号所定の居住者(住民税については、地方税法294条1項1号所定の「市町村内に住所を有する個人」)に当たるか否か。
②X1が居住者に当たる場合、同項4号所定の非永住者に当たるか否か。
<判断>
本件各課税年におけるX1の①本邦での滞在日数、②本邦での住民登録の状況、③本邦滞在中の居住場所(住居の状況)、④本邦での職業への従事状況などの事実関係⇒X1は、生活の本拠たる「住所」(所得税法2条1項3号)を日本国内のa市に有していたものということができる
⇒X1の居住者該当性及びa市の住民該当性を肯定
本件課税年及びそれに遡る過去5年間におけるX1の、①本邦での滞在状況(滞在日数や滞在場所)、②家族の本邦とb国での居住状況、③本邦及びb国における財産の所有状況、④本邦とb国での職業への従事状況など
⇒
当該事実関係の下では、本件各課税年において、X1が日本国内に永住する意思を有していたということはできず、また、「現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人」(所得税法2条1項4号)の要件を満たしている。
⇒
X1の非永住者該当性を肯定。
<解説>
●所得税法2条1項3号の居住者該当性
所得税法上の居住者:
国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人(同法2条1項3号)
非居住者:居住者以外の個人(同項5号)
住所の意義について、所得税法には定義規定がなし。
「各人の生活の本拠をその者の住所とする」(民法22条)
生活の本拠:
①ある場所を生活の本拠とするには定住の意思を有していることを要する(主観説)
②専ら客観的な事情に基づいて決すべき(客観説)
所得税法基本通達2-1:
「所得税法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する。」(客観説)
最高裁:
住所とは、反対の解釈をすべき特段の事由がない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指し、一定の場所がその者の住所に当たるかは否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべき。
●所得税法2条1項5号の「非永住者」該当性
所得税法は、同法2条1項3号の「居住者」について、①「非永住者」と②「非永住者以外の居住者」に区分。
①「非永住者」:同法161条に規定する国内源泉所得及びこれ以外の所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたものについてのみ納税義務を負う
②「非永住者以外の居住者」:すべての所得について納税義務を負う
非永住者:国内に永住する意思がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人(所得税法2条1項4号)
⇒
非永住者該当性は、①国内に永住する意思の有無と、②5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人に当たるか否かによって決せられる。
(平成18年法律第10号による改正により、非永住者は、「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人」とされた。)
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