収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合に裁決の取消訴訟を提起することの可否(肯定)
最高裁H25.10.25
土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合にその名宛人が上記裁決の取消訴訟を提起することの可否
<事案>
徳島県が実施した里道の拡張工事に伴い、当該工事により新設された道路に接する土地の所有者であるXが、当該道路を管理する阿南市による損失の補償について道路法70条4項に基づく土地収用法94条の規定による裁決の申請
⇒徳島県収用委員会からその申請を却下する旨の裁決
⇒同委員会の所属する被上告人を相手に、裁決手続の違法等を主張して、上記裁決の取消しを求める事案。
<規定>
土地収用法 第133条(訴訟)
収用委員会の裁決に関する訴え(次項及び第三項に規定する損失の補償に関する訴えを除く。)は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月の不変期間内に提起しなければならない。
2 収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から六月以内に提起しなければならない。
3 前項の規定による訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならない。
<原審>
本件裁決の取消訴訟は不適法であるとして、却下すべきもの。
←
本件裁決は、Xに本件工事 による損失が生じておらず損失の補償は不要であるとしたもので、道路法70条4項に基づく土地収用法94条8項の規定による裁決であって、損失の補償に関する事項についてしか判断していないところ、損失の補償に関する事項については土地収用法133条2項の損失の補償に関する訴えによるべき。
<判断>
土地収用法94条7項又は8項の規定による収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事項に限られている場合であっても、その名宛人は、上記裁決の取消訴訟を提起することができる。
⇒原判決を破棄し、Xの主張に係る裁決手続の違法事由の存否につき審理させるため、本件を第一審に差し戻した。
<解説>
土地収用法133条は、収用委員会の特殊性に鑑み(なお、収用委員会の裁決は、不服申立てに対する行政庁の判断ではないから、行政事件訴訟法3条3項の「裁決」には該当せず、同条2項の「処分」に該当する。)、同裁決に係る訴えの出訴期間や争訟形態について、行政事件訴訟法の特則を規定。
同条1項は、収用委員会の裁決に関する訴え(収用委員会の取消訴訟)は、損失の補償に関する訴えを除き、裁決書の正本の送達を受けた日から3か月の不変期間内に提起する必要(上記裁決につき審査請求がされたときは行政事件訴訟法14条3項が適用される(最高裁H24.11.20))
土地収用法133条2項及び3項は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならず(行政事件訴訟法4条のいわゆる形式的当事者訴訟と解されている。)その訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から6か月以内に提起しなければならない旨規定(道路法70条4項に基づく土地収用法94条の裁決についても、同法133条が適用される(最高裁昭和58.2.18)。)。
土地収用法133条が収用委員会の裁決の取消訴訟とは別個に損失の補償に関する訴えを規定
⇒
上記裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由は損失の補償に関する事項以外の違法事由に限られ、同訴訟において損失補償に関する事項についての違法事由を主張することはできない。
(←同法132条2項が、収用委員会の裁決についての審査請求においては、損失の補償についての不服をその裁決についての不服をその裁決についての不服の理由とすることができない旨規定。)
最高裁昭和58.9.8:
土地収用法133条が損失の補償に関し取消訴訟とは異なる争訟方法を定めた趣旨につき、
「土地収用法133条が収用裁決そのものに対する不服の訴えとは別個に損失補償に関する訴えを規定したのは、収用に伴う損失補償に関する争いは、収用そのものの適否とは別に起業者と被収容者との間で解決させることができるし、また、それが適当であるとの見地から、収用裁決中収用そのものに対する不服と損失補償に関する不服とをそれぞれ別個独立の手続で争われることとし、後者の不服の訴えについては前者の不服の訴えと無関係に独立の出訴期間を設け、これにより、収用に伴う損失補償に関する紛争については、収用そのものの適否ないし効力の有無又はこれに関する争訟の帰すうとは切り離して、起業者と被収容者との間で早期に確定、解決させようとする趣旨に出たものと解される。」
損失の補償に関する事項(損失の補償についての不服)とは、補償金額の算定がその典型。butその他にも、補償の方法(金銭補償か現物補償か)、補償の各項目の認定(残地補償の要否等)、補償金額の算定時期などがあるとされ、補償の要否もこれに含まれる。
本件裁決では、Xに対する補償の要否という損失の補償に関する事項についての判断しかされていない。
⇒原審は、本件裁決については損失の補償に関する訴えをもって争うべきであり、取消訴訟をもって争うことはできないと判断。
vs.
収用委員会の裁決の判断内容が損失の補償に関する事実に限られている場合であっても、裁決手続の違法は損失の補償に関する事項についての違法事由に該当しないから、これを損失の補償に関する訴えにより争うことはできず、裁判手続に係る違法事由を争う方法、すなわち収用委員会の取消訴訟の提起が許されなければならない。
⇒
本件裁決につき、Xはその取消訴訟を提起することができるというべき。
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