独占禁止法上の課徴金債権と会社更生法
東京高裁H25.5.17
1.独占禁止法上の課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるということは、当該課徴金の納付を命じる審決の違法事由たりえないとされた事例
2.独占禁止法上の課徴金は、会社更生法上、独占禁止法に違反する行為が更生手続開始前にされた場合には、課徴金納付命令が更生手続開始後にされたとしても、更生債権として扱うべきであるとの判断を示し、当該課徴金債権につき更生計画認可の決定によりその責任を免れたとされた事例(傍論)
<事案>
被告の公正取引委員会が、国及び地方公共団体が発注する橋梁の新設工事について原告が談合を行っていたとして、排除措置を命じる審決を前提として、原告に対し、独禁法に基づき、5億3730万円の課徴金の納付を命じる審決を行ったところ、原告が、その取消しを求めた。
平成16年11月18日、審判開始決定
平成20年12月30日、原告に対して、更生手続開始の決定
被告は、課徴金債権について届出せず。
平成22年9月21日、原告の談合行為について排除措置を命じる審決⇒確定。
平成23年6月15日、原告の更生管財人に対し、独禁法に基づき、課徴金納付命令。
管財人が、審判手続の開始を請求⇒審判手続を開始。
平成23年10月24日、原告に係る更生手続を終結する旨の決定。
平成23年11月2日、本件審判事件について、原告の更生管財人を受継。
平成24年9月25日、被告は、独禁法に基づき課徴金の納付を命じる審決(「本件審決」)。
<規定>
会社更生法 第204条(更生債権等の免責等)
更生計画認可の決定があったときは、次に掲げる権利を除き、更生会社は、全ての更生債権等につきその責任を免れ、株主の権利及び更生会社の財産を目的とする担保権は全て消滅する。
三 第百四十二条第二号に規定する更生手続開始前の罰金等の請求権
四 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)のうち、これを免れ、若しくは免れようとし、不正の行為によりその還付を受け、又は徴収して納付し、若しくは納入すべきものを納付せず、若しくは納入しなかったことにより、更生手続開始後懲役若しくは罰金に処せられ、又は国税犯則取締法(明治三十三年法律第六十七号)第十四条第一項(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)において準用する場合を含む。)の規定による通告の旨を履行した場合における、免れ、若しくは免れようとし、還付を受け、又は納付せず、若しくは納入しなかった額の租税等の請求権で届出のないもの
<判断>
過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことのある事業者に対しては、課徴金算定率につき、割増の算定率が適用されることになる
⇒強制徴収できないとしても、納付を命ずる審決をすることは軽視することのできない法的な効力ないし意味がある。
⇒
本件課徴金債権が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるかどうかにかかわらず、本件課徴金債権につき独禁法上の規定に従ってその納付を命ずる審決をすべき。
本件課徴金が会社更生法204条1項の規定により免責されるものであるということは、本件審決の違法事由たりえない。
⇒
原告の請求を棄却。
独禁法上の課徴金債権については、その債権発生の基本的構成要件に該当する事実は独禁法所定の違反行為に係る事実であり、独禁法に違反する行為が更生手続開始前にされた場合には、課徴金納付命令が更生手続開始後にされたとしても、更生債権として扱うべきであると解するのが相当。
会社更生法204条1項3号(更生手続開始前の罰金等の請求権)について、本件課徴金債権と罰金等の請求権は、制裁としての性質は共通する点があるが、会社更生法は、更生手続において、本件課徴金債権が該当するところの租税等の請求権と罰金等の請求権とを、法的性格が異なるものとして明確に峻別し、その取扱いをまったく異にしている。
⇒これを類推適用することはできない。
同項4号(更生手続開始前の租税等の請求権のうち、逋脱等につき刑に処せされまたは通告処分を受けた場合の、その逋脱した請求権で届出のないもの)について、特段の要件の下に特殊例外的な位置付けの規定であり、制裁という点で性質を同じくするとしても、本件課徴金債権について特段の要件がないにもかかわらず、これを類推適用することはできない。
⇒
原告は、更生計画認可の決定により本件課徴金債権につきその責任を免れたものと判断。
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