政務調査費の目的外支出の返還請求を県知事が命じられた住民訴訟
横浜地裁H25.6.19
神奈川県議会の4つの会派が平成15年度から平成17年度までの間に交付された政務調査費の一部を条例に定める使途基準に違反して目的外支出したため県に対し合計約2億3700万円の不当利得返還義務を負ったとされ、これらの会派に対し返還請求するよう県知事が命じられた住民訴訟の事例
<事案>
神奈川県の住民であるXらが、Zら(県議会の4会派)は県の条例に基づき平成15年度から平成18年度までの間に交付された政務調査費の一部を所定の使途基準に違反して目的外支出したため県に対し同額の不当利得返還義務を負ったと主張し、地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき、Y(県知事)に対し、右目的外支出額の返還と各年度の条例所定の返還期日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金をZらに請求するよう求めた住民訴訟。
<争点>
①適法な住民監査請求前置の有無(住民監査請求の特定性の有無)
②目的外支出の有無と額
<判断>
●
争点①について
住民監査請求の特定の程度としては、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合してその対象が特定の財務会計上の行為又は怠る事実であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されていれば足り、右の程度を超えてまで個別的、具体的に摘示することを要しない。
対象となる行為が複数であるが、当該行為の性質、目的等に照らし、これらを一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合には、対象となる当該行為とそうでない行為との識別が可能である限り、個別の当該行為を逐一摘示して特定することまでが常に要求されるものではない。
条例によれば、政務調査費による支出の対象は所定の使途に限定されており、政務調査費の交付を受けた会派は、その使途以外の目的のために支出した場合、その目的外支出に相当する額を当然に不当利得として所定の期日までに県に返還する義務を負う。
Xらの主張を表面的にみると各経費のそれぞれ10分の3について不当利得返還請求権が成立するとしてその部分のみを住民監査請求の対象としているようにも考えられるが、目的外支出があるか否か、あるとしてそれが10分の3以上であるか否かは、結局はその支出全体について監査しなければ明らかにならない
⇒
XらはZらに交付された政務調査費全体の支出を包括して住民監査請求の対象としたというべきであり、その意味において請求の対象を特定している。
Xらは、個々の項目全てについて本来按分すべき経費が按分されていないと主張している
⇒当該支出全体を一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合に当たる。
⇒
本件監査請求は、請求の対象の特定に欠けるところはない。
また、本件検査請求は、請求の対象を広く包括的にとらえたものであるとはいえ、制度趣旨を逸脱しこれを濫用するものとはいえない。
●
争点②(目的外使用)について
◎平成18年度の政務調査費:
監査委員の地位、権限や本件における監査の実情⇒目的外支出か否かについての監査委員の判断は尊重に値すべき⇒まずはこれを尊重し、監査委員の監査基準自体が合理性を欠くと認められる場合か、同基準の個別の支出に対する当てはめが妥当性を欠くと認められる場合に限り、これと異なる判断をするのが相当。
10分の1という按分割合を採用した監査委員の判断には合理性が認められ、平成18年度の政務調査費につき監査結果を超える金額の目的外支出があたっと認めることはできない。⇒同年度に関するXらの請求は理由がない。
◎平成15年度から平成17年度までの政務調査費:
平成18年度と同様に目的外支出があったと推測することができる。
⇒
平成18年度の政務調査費についての監査結果から、同年度にける各Zの目的外支出額が各Zの政務調査費全体の額に占める割合を算定し、この割合が平成15年度から平成17年度までにも妥当するとみて、各年度の政務調査費全体の額にこの割合を乗じることによって、各年度の目的外支出の額を推定。
右の推定に基づくと、政務調査費の目的外支出額は、平成15年度が6600万円、平成16年度が約8200万円、平成17年度が約8900万円で、合計2億3700万円。
Yはこの金額とこれに対する遅延損害金をZらに請求することを怠っている⇒Zらにこれを請求しなければならない。
<解説>
例えば事務所費について、議員ないし会派が建物を賃借し、これを政務調査活動にのみ使用⇒賃料全体に政務調査費を支出することができる。
but
政務調査活動だけでなく例えば後援会活動のためにも使用⇒賃料のうち後援会活動としての使用の対価に相当する部分に政務調査費を支出することは許されない⇒賃料を適切に按分して政務調査費の支出の対象となる額を限定すべき。
~
按分の考え方。
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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