建物の区分所有等に関する法律62条2項4号の意義と趣旨
東京地裁H24.9.25
1.区分所有建物についてされた建替え決議の決議事項につき建物の区分所有等に関する法律62条2項4号は建物及び再建建物の敷地利用権の価格や内容について定めることを求めておらず同号に規定する「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」として欠けるところはないとされた事例
2.区分所有建物についてされた建替え決議につき建物の区分所有等に関する法律62条2項4号が「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を決議事項として規定した趣旨に反する事態は生じていないかったとされた事例
<事案>
Y(東京都訴訟承継人世田谷区)は、A団地マンション建替組合設立認可申請者から、マンションの建替えの円滑化等に関する法律(平成23年法律第105号による改正前のもの。「円滑化法」)9条1項の規定によるA団地マンション建替組合設立認可申請書を収受し、東京都知事は、Yの区長から、本件認可申請書の進達を受け、A団地マンション建替組合設立認可処分(「本件処分」)をした。
本件処分は、これに先立つA団地の各棟ごとの集会における本件建替え決議の決議事項につき、建物の区分所有等に関する法律62条2項4号に規定する「再建建物(新たに建築する建物をいう。同項1号)の区分所有権の帰属に関する事項」として、一部の区分所有者の敷地利用権である借地権の価格が定められていないという瑕疵があり、円滑化法12条1号に規定する「申請手続が法令に違反するものでないこと」という立替組合設立認可処分の要件を満たしていないから違法であると主張し、本件処分の取消しを求め、本件訴えを提起。
<規定>
建物区分所有法 第62条(建替え決議)
集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。
2 建替え決議においては、次の事項を定めなければならない。
一 新たに建築する建物(以下この項において「再建建物」という。)の設計の概要
二 建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額
三 前号に規定する費用の分担に関する事項
四 再建建物の区分所有権の帰属に関する事項
<判断>
●
法規定の意味:
区分所有法62条2項4号に規定する「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」としては、現建物の区分所有権が再建建物においていかなる扱いをうけるのか、すなわち、現建物の区分所有者が、どのようにして再建建物の区分所有権を取得することとなり、また、清算額が定まることになるのか等についての基準ないしルールが定められていることが必要であり、かつ、それをもって足りる。
●
決議事項として欠けるところはない:
区分所有法は、建替え決議における決議事項として、現建物及び再建建物の敷地利用権の価格や内容について定めることを求めていない。
本件建替え決議における決議事項・・・・決議に参加する区分所有者は、現建物の区分所有権が再建建物においていかなる扱いを受けるのか、すなわち、いかなる基準ないしルールによって、再建建物の区分所有権を取得することになり、また、清算の額や方法等が定まることになるのかについて知悉することができる⇒決議事項として欠けるところはない。
●
規定の趣旨にも反しない:
本件においては、本件建替え決議より前に、現建物の敷地利用権としての所有権及び借地権が、それぞれ建替え後の再建建物においていかなる取扱いがされるかについて、区分所有者に対して、具体的な評価額を示した上で、その評価額の割合に応じた等価交換という手法で行うことが示されていた。
⇒
現建物の敷地利用権が所有権である者と借地権である者のそれぞれが、再建建物においてどのような扱いを受けることになるかを了解することが可能であり、適切な議決権の行使ができる状況であった。
⇒
区分所有法62条2項4号が「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」を決議事項とした趣旨に反する事態は生じてはいなかった。
⇒
本件建替え決議は、区分所有法62条2項4号に違反せず、有効であり、本件処分も、円滑化法12条1号に違反するものではなく、本件処分は適法。
<解説>
区分所有法62条2項4号に規定する「再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」については、これが立て替え決議において定めることとされた趣旨:
決議の時点では、建替えの実行に参加する者は確定していない⇒再建建物の帰属とこれに伴う代価の清算関係が、後に改めて参加者間で合意をしないでも、建替え決議に基づいて自動的に定まることを確保する必要⇒その決定の方法又は基準を定めることを要する。
敷地利用権の帰属に関する事項については、法律的には、敷地利用権の再配分は立替のため必要不可欠なこととはいえないため、多数決処理に親しまない⇒決議事項とされなかった。
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
« 固定資産課税台帳に登録された基準年度に係る賦課期日における土地の価格が固定資産評価基準によって決定される価格の適正 | トップページ | 過払金が発生した時点での新たな借入れと利息制限法上の「元本」 »
「判例」カテゴリの記事
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
- 懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)(2023.05.29)
- 警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案(2023.05.28)
- 食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)(2023.05.28)
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント