精神的幇助による危険運転致死傷幇助罪(肯定)
最高裁H25.4.15
刑法208条の2第1項前段の危険運転致死傷罪の正犯者である職場の後輩がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、車両の発進を了解し、同乗して運転を黙認し続けた行為について、同罪の幇助罪が成立するとされた事例
<争点>
①被告人両名が、正犯者である運転者の運転行為を了解、黙認したと認められるか否か
②これが認められるとして、この被告人両名の行為について、危険運転致死傷罪の幇助罪(精神的ほう助)が成立するか否か
<判断>
上告趣意は適法な上告理由に当たらないとした上で、職権で判断。
正犯者と被告人両名との関係、正犯者が被告人両名に本件車両発進につき了解を求めるに至った経緯及び状況、これに対する被告人両名の応答態度等
⇒
正犯者が本件車両を運転するについては、先輩であり、同乗している被告人両名の意向を確認し、了解を得られたことが重要な契機となっている。
被告人両名は、正犯者がアルコールの影響により正常な運転が困難な状態であることを認識しながら、本件車両発進に了解を与え、その正犯者の運転を制止することなくそのまま本件車両に同乗してこれを黙認し続けた。
⇒
被告に両名の了解とこれに続く黙認という行為が、正犯者の運転の意思をより強固なものにすることにより、正犯者の危険運転致死傷罪を容易にしたことは明らかで、被告人両名に危険運転致死傷幇助罪が成立。
<解説>
幇助犯が成立するには、
①幇助行為、②幇助の意思、③正犯者の実行行為、④幇助の因果関係が必要。
④幇助の因果か婦負については、単独犯における因果関係で要求される条件関係まで必要なく、幇助行為が他人の犯罪を物理的又は心理的に容易にすれば足りるとする促進的因果関係があればよい。
最高裁昭和24.10.1:
「従犯は、他人の犯罪に加功する意思をもって、有形、無形の方法によりこれを幇助し、他人の犯罪を容易ならしむるもの」
精神的幇助(犯行に必要な手段等を提供せず、正犯者の犯意のみに働きかける行為)も、正犯者の犯意を強化することにより、他人の犯罪を容易にしたといえるときには、幇助犯が成立。
自動車を運転する正犯者への幇助が問題とされた下級審の事例:
・正犯が自動車の飲酒運転した際、助手席に同乗して自宅まで送り届けるよう依頼し、駐車料金の一部を支払って駐車場から出庫させた行為につき酒酔い運転の幇助犯成立
・道路交通法違反(不救護申告)事件に関し、助手席に乗車していた者が、正犯に対して「電柱にぶつかったかもしれん。」「やばいな。」と話すなどし、逃走中周囲を見回して警戒するなどした行為について、前記行為は正犯とともに事故現場から離れた後でされていることや前記行為による正犯への加功の程度等を考慮して、幇助犯を否定した事例
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