インサイダー取引の成立が肯定された事例
東京地裁H25.6.28
上場企業の合併や増資の検討に関する事前報道等の存在をもって、株券買い付け前に重要事項の公表があったものといえず、インサイダー取引の成立が肯定された事例
<判断>
各上場会社の合併や増資の検討に関する事前報道等は、合併について当該会社の正式な意思として広く一般投資家に知らしめる意図をもって取材に応じたとは考え難いことや、増資に関する報道機関への説明も、既に決定した事柄としてこれを推進するというような姿勢を示したものとは解されない
⇒重要事実の公表には当たらない。
上記報道等によっても、本件合併等の事実は被告人による株券買い付けの時点において、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼし得る情報であり「重要事実」に当たる。
⇒
被告人による株券の買い付け行為はインサイダー取引に該当する。
<解説>
●
金融商品取引法166条1項は、同条各号に掲げる者であって、上場会社等にかかる業務等に関する「重要事実」を、当該各号に定めるところにより知ったものは、当該業務等に関する「重要事実」の公表がなされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証等に売買等をしてはならない旨規定。
同条2項は、前項にいう「重要事実」について、1号から8号までの類型に分けて規定し、投資者の投資判断に重大な影響を及ぼす上場会社及びその子会社の業務等に関する重要事実として、上場会社等及び子会社の①意思決定に係る重要事実(1号及び5号)、②発生事実(2号及び6号)、③業績予想の修正に係る重要事実(3号及び7号)並びに④その他上場会社等及び子会社の運営・業務・財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの(4号及び8号)に類型化して定義。
①決定事実(1号及び5号)と②発生事実(2号及び6号)については、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令で定める基準(軽微基準)に該当する事実については、上記規制の適用が排除されることとされている。
重要事項の公表は内部取引禁止の解除条件とされており、金商法166条4項が、内部取引を可能にする公表の方法を規定。
同項所定の事項について、多数の者の知り得る状態におく措置として政令で定める措置がとられたこと又は同法25条1項に定める有価証券届出書・有価証券報告書等の法定書類にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が公衆の縦覧に供されることを要すること。
「多数の者の知り得る状態におく措置」につき、政令において詳細な規定が置かれている(金商法施行令30条1項、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令56条)。
●
「重要事実」に該当するか否かの判断を巡っては、米国法では、「合理的な投資家であれば証券の売買について決定に際し重要と考える蓋然性」基準により判断。
未確定の事実については当該事実が発生する蓋然性と当該事実が会社全体に及ぼし得る影響の大きさにかんがみ判断される。
日本法の下では、内部者取引規制について明確性を重視し未然防止の態勢をとりやすくするという基本方針に基づき、重要事実も形式的に規定されている。
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